結婚することにより二人の人間が運命共同体として、あたかも一つのユニットとして生きていく。こうなると、夫婦としてそれぞれが所得を得ていたとしても、右のポケットにお金を入れても、左のポケットに入れても一つのユニットとしては変わりがない。 そこでアメリカの税法には、日本にない夫婦合算というファイリングステータスがある。申告を行う時になれば、二人で一つの申告書を作成すれば良い。なにも時間をかけて申告書をそれぞれの人間が提出する事もない。 昔から一人口は食えなくても、二人口は食えると言うわけではないが、標準控除をフルに二人分使えて税額控除を取る幅も広がる。 一方の配偶者に所得がないとか少ない場合で考えると、所得の少ない配偶者は申告も要さず、税額も発生しない。2022年分で言えば個人としての標準控除$12,950を捨ててしまっている。 ところが、夫婦合算での申告をすれば、二人の所得は合計で不変でも、標準控除が2倍となり、使える控除は$25,900となる。もしも、限界税率37%のケースなら$12,950の37%で$4,792($1=130円なら約60万円)税金が少なくなる。結婚がボーナスを与えてくれる。 片方の配偶者が単身赴任をしていて、例えば日本とアメリカにいるとしても夫婦の合算申告は可能だ。 ではファイリングステータスを後から変更して修正申告を提出できるだろうか。ありがたいことに過去3年以内の申告書ならば還付が可能だ。 申告書を提出する事は、納付するべき税金を支払う責務を持つことになる。夫婦であれば、一方の配偶者に、もしも仮に税金を支払う力なない場合は、もう一人の配偶者が支払うことを約している。これはIRSにとっては間口が広がる。 しかしながら夫婦合算で申告していたものを、夫婦個別の申告に修正することは認められない。夫婦個別にすることはその税金の支払いから除外することになりかねない。それは容易には認めますとは言えない。
先週、出国税(Form 8854)で救済措置があることを書いた。重複するがもう少し補足したい。 出国税の対象から救済があって外されるケースが2つある。1つは出生による米国と外国の二重国籍者であり、放棄日がある課税年度の前15課税年度で、10年以上アメリカの居住者ではなかった人だ。もう1つは、18.5才未満で出国する未成年者で、放棄前に10年以上アメリカの居住者で無かった人だ。救済措置が適用されると、従来申告書を提出しなかったことにペナルティを受けないし、税金の支払い(25,000ドル未満の場合)が免除される。 救済手続きプログラムの資格を得るには、次の資格基準をすべて満たす必要がある。 1 2010年3月18日以降に米国市民権を放棄した、または放棄する予定の人 2 米国市民または米国居住者としての申告書を提出したことがない。しかも申告書を提出しなかったのは故意ではない。過去に非居住者として申告書を提出した場合でも、対象たり得る。 3 出国時点前の 5年の平均所得税額が2022年ベースでは$178,000を超えていない。 4 出国時点の純資産は2,000,000ドル未満である。 5 出国前5課税年と出国年で、支払うべき税額が累積で25,000ドルを超えない。 6 対象6課税年度の申告書をすべて提出することに同意する。 基準を満たしていない場合は、この救済の資格がなく、それでも提出する場合、IRSは通常の処理で申告書を処理する。結果として、すべての税金、罰金、および利息に対して納付義務を負う。 FATCAは救済の要件だが、FBARの提出は救済の適格要件ではない。しかしFBARの申告要件に合致する場合は、FinCENにファイリングする必要がある。適格にFBARを提出した場合、IRSはFBARのペナルティを課さない。 もともと救済措置だけではなく、Form 8854の申告基準額を下回っていているからForm 8854を提出しなくても良いと考えると間違いだ。逆に、すべての基準値を下回っている事、適性に申告をしているとIRSに通知をして受理してもらうのがForm 8854だ。
出国税の対象になる人かどうかは3つの基準に該当するかどうかで考える。このうちどれか一つの基準でも合えば、出国税の対象となる。 ① 納税額基準 過去5年の平均税額が2022年の場合だと$178,000以上の人 ②財産額基準 市民権・グリーンカード放棄時に純資産$200万以上の人 ③適正申告基準 過去5年の申告納税義務をきちんと果たしていない人 初めの二つの基準には当てはまらないが、③の基準で潜在的に出国税の対象というケースが多い。税額が発生するかどうかは別問題だ。 この3条件の基準に合致して税額が出るケースであっても、それでも出国税の対象とならない人がいる。「二重国籍の例外」に該当するケースだ。この例外で出国税の「対象者」の扱いを免れる。ただし、これにも条件が付帯する。 例外となるためには、以下の2つの要件を満たし、市民権放棄前の5年間にきちんとアメリカの納税義務を果たしていなければならない。 ① 出生時に米国市民および他国の市民となり、出国時に引き続き他国の市民であり、その居住者として課税されている。 ② 放棄日がある課税年度の前15課税年度で、10年以上アメリカの居住者ではなかった。 出生でアメリカ市民権を持つには2つケースがある。 一つ目は米国内で生まれることだ。もう一つの方法はいずれかの親がアメリカ市民(一定期間米国に住んでいる条件付き)であればアメリカ市民となる。 出国前の5年間、きちんとアメリカの税務上の義務を果たしていなければならないと言う所が問題だ。ここはきちんと申告をすることになる。そうするとアメリカの税金が発生するかも知れない。実態上日本人であり、アメリカとは縁がなく日本で暮らしている方には何とも割り切れない。 そこで、ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナの民間人が安全に避難できるルートが作られた(人道回廊)ように救済措置が設けられている。この救済措置により税額に関しては不問とする。そういう落としどころにしてくれている。 ただし実際に安全に非難できた方もいれば、安全が保障されないケースもあったろう。日本の国民であったとしても、日本以外の国に住んでいたら日本の居住者とは言えないのではないか。日本に帰国して日本の居住者となり、日本の納税義務を果たしてから放棄となるのだろうか。微妙なところがある。 しかし、出生ではなく自ら進んでアメリカに帰化をする人がいる。この場合は、自ら進んでアメリカ市民になっているわけだから救済措置はない。しっかり申告をするべきは申告を行い納税する事を求められる。
本当にIRSは提出した申告書を処理をしてくれたのだろうか。還付があるものならば、還付金を手にしていれば分かる。還付の情報はwhere is my refundで調べればコンピュータにのっている情報はわかる。申告書のコピーをIRSに求めると、処理されたものはわかる。しかし、処理をされていなかったら情報は出てこない。 今にして思う。コロナウイルスの騒がれたのは2019年末ぐらいだった。世界中に爆発的に広がり、日本でも2020年に入りダイヤモンドプリンセスでの感染が報道された。ちょうどこの時期からアメリカの申告書提出時期と重なる。 新型コロナウイルス感染症の世界的まん延に伴う航空機の減便・運休による米国宛て国際郵便物の大幅な遅延から、アメリカ宛ての国際郵便物の取り扱いが長い間停止されることもあった。日本から多くの方がアメリカにどうやって申告書を提出するか頭を抱えた人も多かったはずだ。 IRSでは2020年3月には職員にテレワークをするように通達が出され、事務所に入るのも自由にならなかった。これにより2020年の申告期限は異例の2020年7月15日となっている。 さて、こうした中で日本からアメリカに送付した申告書は、そもそもアメリカにいつ届いたのだろう。 2021年の申告で169百万件の個人申告があった。電子申告が152百万件、残る17百万件は紙の申告となる。コロナウイルスの世界的混乱期では、紙の申告書で事故が1%あれば17万件だ。0.1%あったとしても1.7万件という数字となる。 物流の混乱でもともと貨物が行方不明となり、IRSに書類が届いていなかったことも考えられる。IRSに届いてさえ倉庫に山積みになって未処理の申告書があるかも知れない。IRSの中でも、申告書を再度国内輸送して申告書の処理をした。また2021年3月にIRSは約30百万件の書類を捨ててしまったと言われる。せめてきちんと記録があればわかるが、どこでどうなっているかわからないケースもあるに違いない。 過去の申告書がどうなっているかとIRSに聞かれても、コンピュータにデータがなければIRSはわかりませんと言うしかないだろう。国際的物流の混乱か、アメリカ国内か、IRSの倉庫の中に書類が眠っているか、テレワークしている時に紛失してしまったか特定できない。結果として提出した申告書が処理をされていないことはあり得る。しかし、IRSの言っていることは大本営発表のように割り切った情報しかない。とても一人一人の本当の状況を追うことは難しい。 個人の2019年の申告書は、2023年4月15日を越えると原則は還付に応じてもらえない。まあ、いいやと思える還付ならば、あきらめればいいかも知れない。しかしそうもいかないと言う事ならば、4月15日前にもう一度、申告書を提出する事を考えたらどうだろう。 IRSはオリジナルの書類を2度出すと混乱するので、出さないでくれという。しかし、もともと書類がIRSに届いていないこともあるかも知れないのだから、2回目を提出してもそれが初めての提出となることもある。
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