FBAR(外国銀行および金融口座の報告書)の提出に関しては、通常、暦年中の任意の時点で合計値が10,000ドルを超えた場合、外国の金融口座を報告する必要がある。 この時に良くわからないと思う一つが住宅ローンの借り入れの扱いだ。確かに口座には住宅ローンを借り入れて3,000万円とか5,000万円とか残高に記載される。そして間を置かずに不動産の購入のために支払われる。一瞬の残高で、その日の終わりの残高では借り入れた住宅ローンの残高はゼロに戻っている。 口座残高の報告を行う場合は、こうした状況でもFBARの残高に記載するべきなのかと考えてしまう。FBARの説明書を見ても明快な扱いを記載していない。 基本的には銀行の口座の残高は自分のお金で資産を報告している。住宅ローンは借入金で負債ではあっても資産ではない。 FBARは、年間を通じてすべての口座残高の合計が10,000ドルを超える金融口座を報告する。一瞬の後に払い出されて残高が残らない負債を報告する事は、FBARの報告制度からは外れているように思える。おそらくは報告対象外だろう。 FBARは、年間を通じてすべての口座残高の合計が10,000ドルであれば報告を行う。仮に銀行口座が5つあり、それぞれの口座に10,000ドルあれば合計残高は50,000ドルとなる。10,000ドルの報告基準を上回るのでFBARを提出する。 ここに住宅ローンが300,000ドルだったとする。これは資産ではなく負債なのでマイナスの資産だと考える。するとすべての口座残高を合計するとマイナスになってしまい、報告基準の$10,000ドルを満たさない。FBARの報告は必要がないと判断してしまうと、これは逸脱していると思える。 住宅ローンも口座の記録上はプラスの値で記載されている。ならば、機械的に残高をそのまま報告するのも考え方だ。報告する必要が無かったものを記載して、ペナルティということはない。その意味では記載して不都合はない。 明確な基準がないので、住宅ローンをFBARやFATCAの報告に入れても実害はないと思える。はっきりしない場合は、実害のない道を選ぶのが安全運転か。
個人の申告でSchedule AやSchedule C でペナルティ(罰金)をどう扱うのか。税金そのものは金額の制限があるにせよ、控除を取ることができる。しかし、連邦税または州税の申告遅延に対するペナルティや予定納税の不足額に対するペナルティは控除できるのか。 税金もペナルティも財布からお金が消えるが、その目的には重要な違いがある。 税金は政府への義務的な財政負担だ。道路、学校、社会福祉プログラムなどの公共サービスの資金として使用される。支払う税額は収入、財産等に基づいて決まる。 ペナルティは、ルールを破ったり義務を果たせなかった場合の罰則だ。これは、ルール違反を抑制し、順守を促すことを目的とする。ペナルティはルールを守れば回避できる。 どちらもお金がかかるが、税金は公共サービスの資金となり、ペナルティは行動を守らせることを目的とする。 連邦税または州税の申告遅延や予定納税の不足額に対するペナルティは、税金に関するペナルティなのでどうだろうと考えるかもしれない。 しかし、話を分かりやすく置き換えると、駐車違反やスピード違反をしてペナルティをもらった場合、これを控除としてSchedule CやSchedule Aで使うことができるのかとなる。 一般論として駐車違反やスピード違反が、申告を行う時に必要な合理的控除と言うのはどう考えてもあり得ない。どんどん駐車違反やスピード違反をしてペナルティを受けると、その分を納付した税金とできるなら、それにより結果的に税金の金額が小さくなる。節税のためにどんどん駐車違反やスピード違反をすればよいとなると、どう考えてもまともではない。 これは極端な話かもしれないが、ペナルティは税控除の対象にはならない。申告の遅延や納税額不足を抑制し、納税者が規則に従うようにするために、この控除を認めてはいない。
アメリカの市民権をベースとする課税とForm 2555はブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいるように思える。市民権課税ではアメリカの市民であれば、全世界の所得をアメリカに申告することになる。一方で、外国で働いて得た所得は一定の条件下で所得から除外してくれる。この金額の上限は2023年で$120,000、2024年で$126,500ある。住宅費を加算するともっと大きくなる。 歴史的に見れば独立戦争時でも、外にいる人にも応分の負担を求めていた。独立戦争で命を失いたくない人たちは、現在のカナダに逃れたという。銃を持って戦わないならせめてお金を出してもらいたいという事だったようだ。 一方でForm 2555はいつからあるのかと見ると、1958年のForm 1040の説明書に出てくる。1958年に始まる年に、総所得は米国以外の源泉から得た所得も計算するとある。つまりアメリカ国外源泉の所得も、全部入れるように言い、除外すべきと信ずる外国源泉所得はForm 2555で申告をするように言っている。 1958年以前は、米国外源泉の所得は総所得から除外されていた可能性があった。しかし、1958年以降、この除外はなくなり、総所得は米国外の源泉から得た所得を含めて計算すると明記した。 1958年は考えてみれば、第二次世界大戦の終結から10年以上たち世の中が落ち着いてきた時期だろう。極端な言い方かもしれないが、第二次世界大戦で戦場で戦っている人に戦場から申告書を提出してと言えたか。自分の命を国に捧げて、闘っている人が、戦場で申告書と向かい合うとはとても思えない。原則はそれでも申告書の提出義務があったが、現実論はなかなかそうもいかなかっただろう。1958年時点では第二次世界大戦の終結から10年以上たち、世の中が落ち着いて市民権課税の原則を貫く環境ができたという事か。 しかし、一気に外国所得をアメリカ課税としてしまう事も難しかったのだろう。1958年Form 1040はForm 2555で現実的な救済としたものと思える。除外できる限度額は$20,000だった。今から見れば$20,000は小さいように思えるも、消費者物価指数を考えると現在の20万ドル近い金額だったようで、かなりの金額だ。 このForm 2555は海外で働く人には利益をもたらすが、米国内で働く人には利益を提供しないため、納税者の間に不公平を生み出すと主張する人もいる。もしかしてあの人が何かの声を上げたらその影響は計り知れない。
アメリカの市民権やグリーンカードを取得する時に一体、アメリカの税金をどれだけ考えて取得しているか多くの場合は疑問を持つ。極論すれば税務の事にはほとんど関心がないのではないかと思える。 もっと極端なケースはアメリカで出生したことでアメリカ市民となっている人だろう。自分が生まれてきた場所がアメリカだったということは、自ら選べるものではない。だが、その事実を持ってアメリカの税の世界に取り込まれる。それでも、出生から大人になるまでずっとアメリカで生活していれば、アメリカの税金に触れる事があり、それなりの認識も深まるはずだ。 しかしながら、アメリカで生まれたのだが、親がアメリカでの仕事が終わり、幼少時に日本に帰国してしまった。それ以来、アメリカには足を踏み入れたこともなく、自分がアメリカ市民であるという認識すら持っていない。 アメリカは税務上の責任について、何らかの教育や知識を与えてくれているのだろうか。例えば、交通信号は青信号では進み、赤信号では止まる。これは教育受けたから知ったのか、社会生活で知ったのかはわからない。アメリカにいれば申告や納税をすることは常識でしょうと言われるかもしれない。 しかしながら日本にずっと住んでいる人にはアメリカの税金と直接的な接点もない。そしてある日突然、アメリカの申告をしなければならない。申告をしていないことにペナルティがかかると知ったら、理不尽と思うに違いない。わかっていて申告をしていないことに申し開きはできないけど、全く知らないアメリカの申告・ペナルティと言われても困ってしまう。 状況はどうであれ、アメリカから見ればアメリカ市民の基本的な義務は申告・納税する事だから、申告をしなくてもいいですよとは言えない。知らない事を免罪符にすれば、アメリカに住んでいるアメリカ市民が申告をする事を知らないと言えば、申告・納税をしなくても良くなってしまうようなものだ。 外国に住んでいる人間は、全体から見れば少数の例外であり、例外を基準にして全体を変えるわけにもいかない。もちろん、血も涙もないわけではなく、個々の事情により救ってあげましょうという道があることは確かだ。 そうすると、出口としてはアメリカの市民権を放棄するということになってもおかしくはない。ただその場合でも、出国税が待ち受けており少なくとも過去5年の申告の実績、未払いの税金がないということを確認される。 アメリカの市民権を放棄しないのであれば、アメリカの税金の申告を行い、未払いの税金を納付し、当年度からはしっかりアメリカに申告を行わなければいけない。 若い世代ならば、今からアメリカに渡りアメリカ市民として自分の道を切り開く事も考えるかもしれない。然し50才、60才になって今からアメリカに渡り未知の世界を切り開くというのも容易ではないはずだ。 アメリカの市民権課税と言う仕組みはつくづく面倒なものだと思う。
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