アメリカの非居住者が、アメリカにある居住用の不動産を30万ドル以上で譲渡すると、FIRPTAという源泉課税を受ける。 なんでそんなことになるのかというと、外国に住んでいる人がアメリカの不動産を譲渡して、譲渡益を申告しない事を防止するためだ。即ち、税金の漏れをなくするために、不動産の売買時に、買主が強制的に譲渡価格の15%(100万ドル以上で10%)の源泉徴収を行い、源泉徴収義務者としてIRSに納付する。 円で表記するが、仮にアメリカの不動産が1億円で売れた場合、売主は源泉徴収の1,500万円を引かれ、残りの8,500万円を手にする。 本来、この不動産に対する所得税の課税は、長期保有の不動産ならば、譲渡益の20%の課税を受ける。仮にその不動産を5,000万円で購入し、減価償却や譲渡経費を脇に置いて、1億円ー5,000万円=5,000万円の利益が出たとする。税金は5,000万円の20%で1,000万円となる。 つまり、源泉徴収は1,500万円だから、税金の1,000万円より500万円多く払っている。これは何としても還付してもらわなければいけない。そのために、非居住者はアメリカの申告書を提出して、過大に納付した500万円の還付を受ける。申告書を提出して人質を返してもらうようなものだ。ただし、それまでの時間がかかる。 さて米国市民、グリーンカードなどのアメリカ居住者はこの源泉徴収の対象外だ。すると次のように考えるかもしれない。 うちの配偶者はアメリカ市民だ。アメリカの申告も夫婦合算で行っている。不動産も共有名義だ。よし、配偶者が譲渡したことにすれば源泉徴収はゼロじゃないのか? しかし、これはうまくいかない。不動産譲渡益は、その不動産の購入時にお金を出した人の比率で売主に配分される。もしも購入金額を日本人の配偶者が全て負担していたら、本来100%が日本人のものだ。でも、夫婦の共有名義として登記しているので、それぞれの持分は50:50とされる。 ところが、日本の税務から見たら50:50にした時に、そもそも贈与をしたのではとみなされる恐れがある。実態を見てもらい、贈与はなく片方の配偶者個人のものだとする。確定申告時に、実態により日本人配偶者が100%自分の所得として課税を受ける。良かったと思うかも知れないが、アメリカの夫婦合算の申告書半分がそれぞれの配偶者だと、アメリカで課税を受けた税額の50%しか、日本の申告で外国税額控除を取れなくなるかも知れない。源泉徴収の話以上に、そもそもの話になりかねない。 夫婦が一つのユニットになっているアメリカと、夫婦でもそれぞれ課税を受ける日本の違いが出てしまう。
日常、いろいろな形でありがとうございましたとお礼を渡すことがある。この時期は、お世話になっているからとお歳暮を贈ったり、お世話になった人にお礼をあげたりもらったりする。 こうしたお礼はアメリカ税務上、どうなるのだろう。贈与税と所得税の切り口で考える。 贈与税で言えば、社会通念上の通常のお礼ではまず贈与税の対象とはならない。 アメリカでは日本と異なり、あげる人が贈与税を支払う。しかも、あげる人一人あたりで2022 年の贈与税の年間非課税控除額16,000 ドルがある。夫婦であげるとこの2倍となる。非課税の枠を超える贈与はしていないだろう。 一方、会社、雇用主から社員への現金や現金同等物の贈り物は、たいていの場合は報酬としてみなされる。特別ボーナスとかインフレ一時金とかは課税対象の所得となる。違和感はないだろう。 しかしながら、現金以外のお菓子や誕生日祝いをもらったり、会社のコピー機、携帯電話をたまに私的利用する事はどうか。私的利用は許されるかどうかは脇に置くと、ごく少額なら税務処理が現実的でないと見なすため、税金の対象にしていない。 少額とはいくらかと言えば、明快な線引きはない。2001 年IRS のフリンジ ベネフィットガイドでは、 少なくとも 1回、100 ドルは少額ではないとしている。金額が小さくとも恒久的に何度も繰り返されるとこれも課税対象になることもある。
ずいぶん昔の事だが、給料は現金で支払われていた。給料袋にお金が入れられて、給料日には上司からその給料袋を受け取るものだった。懐に現金があると気が大きくなって、あっという間にお金がなくなったり、給料袋を紛失してしまうとか、逆に、使いかけの給料袋が机の中から出てきたと言う人もいたりしてにぎやかな時代だった。 しかし、いつの間にか給料は「銀行口座」「証券口座」に振り込まれる。口座の残高だけが動いて記載される。 そして今、給与を○○Payなどスマートフォン決済サービスで受け取る「デジタル給与払い」が近々実現しそうだと新聞で伝えられている。「決済サービス」に給与が直接振り込まれると、ATMに現金を下ろしに行くことがなくなる。スマホがまるで金融機関のATMだし、自分の財布となっている。 キャシュバックやポイントなどの特典もつくならありがたい話だ。ますますお金を支払ったり、受け取ったりするのではなく、情報だけがやり取りされて決済が終わってしまう。何とも便利なものだと思える。 そこで、気になるのはFBARやFATCAの報告の時に、決済サービスをどう扱うのだろう。金融口座で給与を受けて、そこから○○Payに残高が移る場合、金融口座の残高把握は可能だ。しかし給与支払元から給与がスマホの○○Payに振り込まれるなら、金融機関を通過しない。 決済サービスゆえに金融機関じゃなく、残高報告の対象から外れるのかよくわからない。しかし、趣旨としては決済サービスでも、情報申告の対象に入れると言う方向なのだろうと思う。金融機関の住所や支店名を書くのも戸惑うし、口座番号をどう書くのか疑問を持つ。 とは言え○○Payの残高をすべて報告して特段の不都合はない。申告しないで後から何かを言われるより、そのまま申告するのが安全運転と思える。
年内も1か月を切り、来月には2022年分の2023年申告が始まる。今月はクリスマスでお休み気分になりがちだが、そろそろ申告の資料もそろえなければならない時期に来ている。アメリカの税務から早く解放されたいならば、ここは大事な月だ。 グリーンカードを持っている人が日本に帰国して、そのままグリーンカードを持ち続けていれば、今までのようにずっとアメリカへの申告がついて回る。グリーンカードが期限切れでも、正式な放棄手続きなしには、税務上のステータスは変わらない。 日本だけではなく全世界の所得がアメリカへの申告の対象になる。日本の所得もアメリカに申告しなければならない状況が続く。グリーンカードを放棄するか決断できなければ、アメリカへの申告はこの先もついて回る。 日本に帰国して、もうアメリカに戻ることはないとはっきり決断できているならば、グリーンカードの放棄を行い、アメリカの税務から解放されたらどうだろう。日本の申告に加えてアメリカの申告を行う事は面倒だろうと思う。 グリーンカードの放棄はアメリカ大使館でのサイトに掲載されている。難しいことはなく方向さえ決まっていたら、手続きは書類を郵送するだけで、書類の作成は20分か30分あれば終わるだろうし、あっけないほど簡単だ。年内に十分行うことができる。そうすれば2022年分の2023年申告(出口税も含めて)が最終申告となる㊟。 この手続きを1月以降に行うと、さらに最終申告が1年延びて2024年まで延びてしまう。 一方で、積極的にこれからアメリカで生活されると言うも当然、おいでになる。年令に関係なく70歳半ばになってグリーンカードを取得され、これからアメリカに移るという方にもお会いした。この場合は、日本の年金も含めてしっかりアメリカで申告を行うことになる。 ㊟グリーンカードを放棄しても、アメリカに不動産があって賃貸所得があるとか、その不動産を譲渡して譲渡益の課税を受ける場合は、アメリカ非居住者としてのアメリカへの申告は残る。この場合は、完全にアメリカの税務と接点がなくならない。
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