働いて得られる給与の場合、給与をもらう原因となった役務の提供がどこで行われたかを考える。アメリカに住んでいて、アメリカで役務提供がなされていれば、アメリカの源泉所得でアメリカの課税となる。アメリカではなく日本と置き換えると日本の課税となる。 すると、日本からアメリカに1週間、アメリカへ出張して仕事をすれば、1週間分のアメリカ源泉所得が発生して、多くの人がアメリカに申告をしなければならないことになる。年間、何度もアメリカに出張する人は面倒な話になりかねない。実際には日米租税条約の短期滞在者免税の規定で年間滞在期間が183日を超えない場合は免税としている。 租税条約がなく、役務提供地基準で課税が行われると、これは面倒なことになる。飛行機に乗務されている方が、ヨーロッパの上空を飛んだ場合に、1フライトで複数国の国境をまたぐ。その場合、各国が領空上を飛んでいる時間で所得配分をして、複数国に申告をしないといけないとなると大変面倒な話だ。各国との協定があって面倒税務処理は避けられているのだろうと思う。 この話は国境を越えて相手国で働くケースに当てはまる。例えばアメリカ居住のアメリカ市民が、毎日国境を越えてカナダに通勤する、あるいはその逆のパターンがある。この場合は、働いている国の非居住者として、その国を源泉とする所得に対してのみ相手国に税金を支払う。さらに相手国に支払った税金を、外国税額控除として自国から控除する。 国境をまたがずに、アメリカの州税をどうやって支払うのかと言う話も出てくる。 一例としてニュージャージー州に住む人がニューヨーク州で働いている場合、居住している州と働いている州の課税が起きてしまう。二重課税を避けるために、ニューヨーク州の税金を、ニュージャージー州で控除をする。ニュージャージー州はペンシルベニア州と相互税協定を結んで働いている州でのみ課税されるが、ニューヨーク州と同様の協定はない。 ではスペースシャトルに乗って仕事をしている場合はどうなるのか。アメリカはスペースシャトルの勤務はアメリカ源泉所得とする。宇宙空間は特定の国の領空を超えているので、他国と源泉所得を分解するようなことはない。
出国した日は一体いつなのか。一見、どうと言うこともない話のようだが、迷宮への入り口でもある。 大抵はForm I-407を提出する時に出国となる。現在は、日本からだと書類を郵送するだけで良い。日中、郵便局に行って書類を発送する。さて、この日が仮に10月1日だとしたら10月1日で出国となる。出国税はその一日前の9月30日を基準日として申告する。 10月1日だとその日は書類を発送するまでは、アメリカの居住者で、発送した後はアメリカ非居住者になってしまう。と言うことは居住者としての財産目録なのか、非居住者としての財産目録になるのか紛らわしい。 出国税のもともとの狙いが、非居住者になることによってアメリカの課税から抜け落ちる事を防止しようとしている。アメリカでせっせと稼いだ結果、株式が値上がりし年金資産が増えて資産を形成した。アメリカ居住者ならば、アメリカに譲渡益を税金として支払いアメリカ社会に貢献する。 しかし、アメリカのインフラを使い生活をして、財産が増えても母国に帰って、税金を払わずにアメリカにただ乗りして逃げてしまう。非居住者が株式譲渡益を得ても、アメリカの課税とはならない。 これは租税回避となるので、アメリカは許せない。だから出国する時は実際に株式等の財産を譲渡していなくとも、年金をもらっていなくても、みなしで株式を譲渡し、年金を受給したこととして、幽霊利益に税金を払わせる。 居住者ならば全世界所得課税だから、財産目録についてアメリカはすべて課税できる。非居住者だと課税できない財産も出てくる。非居住者の目録を提出しても意味が薄い。 冒頭の例だと9月30日が基準日だ。9月30日の朝に、株や不動産を持っていて、含み益を抱えている。その日のうちに株や不動産をすべて譲渡し、含み益が実現してしまうと報告内容が変わってしまう。と言うことは、9月30日の夜11時59分59秒で一瞬後に10月1日になるタイミングの財産目録と言うことだろう。
出国税は年金を報告することを求めている。確かに、年金と言っても公的年金、企業年金、私的年金といろいろある。報告範囲はアメリカだけではなく、日本の年金も入る。既に自分の手元にある財産の評価はわかりやすいだろうが、年金のように一時金ではなく生涯にわたりもらうものはどう評価すれば良いのかは容易ではない。 年金は年金の受給資格を得て支給開始をされる年齢に達してから支給される。年金は現役世代にせっせと保険料を支払っているが、直接的に自分の口座の預金のように個人口座の残高が増えているわけではない。納付している保険料で年金受給世代を支えている。一定期間、保険料を納付することにより、年金の受給資格を取得して、年金を受給する時には自分より若い世代の支払う保険料で支えられる。 考えて見ると、市民権やグリーンカードを放棄する方が40才や50才だとする。出国税の申告のために、公的年金をいくらと見積もるのか。雲をつかむような話になってしまう。仮に何らかの金額を計上しようとする。 万が一、その方が年金をもらう年齢に達しない時に亡くなってしまったらどうするのか。65才から年金を受給するとして何才まで生きられるのか。年金制度が今から数十年後にどうなっているのか。崩壊とは言わなくてもいくらもらえるのか。日本の年金だったら数十年先の為替レートをどうやって決めてドルに換算するのか。 こうしたことを考えるとForm 8854に公的な年金を記入することはほぼ不可能ではないだろうか。年金を受給できるという権利については明快にわかるだろう。しかしその権利の経済的な価値がいくらなのかは、どうやって算定するのかはわからない。 アメリカ国、日本国が支給する公的年金は記入しなくても良いだろうというのが、個人的な考え方だ。 但し、公的年金はそうであっても、企業年金、私的年金が同じだということにはならない。ここは一線を画さなければならない。
申告書を作り、税金を計算して税額の欄では税金が発生しない。ところがもっと下まで行くとSelf employment taxと言うのがあって、税金が発生している。何としてもこれを消したいのだが消すことができない。中身を良くはわからないけど、仕方ないそのまま税金を払ってしまうという方もおられるのではないだろうか。 Self employment taxは日本で言えば社会保険料だ。年金や医療保険のために、所得税とは別に支払っている。アメリカの場合はSocial security taxでTAXとなっている。社会保険料は給料天引きになっていたら特段、動く事はない。しかし、自営の場合は自分でSocial security taxを納付するしかない。 以前の事になるが、日本からアメリカに駐在すると、日本の社会保険料を払い、さらにアメリカのSocial security taxを払うことが行われていた。日本の年金の受給資格を得るためには25年以上支払わなければいけない。ところがアメリカにいる間は、日本の社会保険料を払わない。すると年金を納めた期間が不足して、年金の受給に影響が出てしまう。一方、アメリカで納付した社会保険料も、アメリカの年金受給資格を得ることもなく掛け捨てで終わってしまう。 そこで日米の社会保険協定ができて、不合理な二重払いを解消できるようになった。即ち、年金の受給資格の計算のために両国で働いた期間を相互乗り入れしてカウントできるようになっている。 そこで自営業の場合、どう日米で納付をするか。ごく短期間だけアメリカに行って仕事をするために、日本の社会保険制度から離れてしまうのも現実的ではない。そこで5年基準を設けて、アメリカに行っている期間が2,3年ならそのまま日本の社会保険制度の中にいて、アメリカの社会保険制度に入らなくてもいいとなる。アメリカのSocial security taxを払わないで良くなる。 日本の社会保険制度に入るのか、アメリカの社会保険制度に入るのか、この部分はその方の個人の状況ごとに異なる。しかし、もともと日本人で、ある限られた期間だけアメリカに住んだとなれば、日本の社会保険制度でカバーされるのが自然だろう。結果として所得税がゼロで、Social security taxもゼロで申告するのが適正の方も多い。 市販の税務申告ソフトを使う場合、アメリカに住んでいるアメリカの人を対象に作られている。日本に住んでいる人はそもそも例外となる。 ソフトが自動的に例外を救ってくれるとは限らない。ソフトがそう言うのだから、なぜだかわからないけどそれで良いのだろうと、払わなくても良い税金を払うことになりかねない。
Form 1040のグループにいくつか種類がある。Form 1040-NR, Form 1040-SR, Form 1040A, Form 1040EZ, Form 1040-ES, Form 1040X等がある。めったにお目にかからないのがForm 1040-Cだ。 所得税法のSection6851(d)(1)は次のように言う。 (d)外国人の出国 (1)外国人は、所得税法によって課せられたすべての義務を遵守したという証明書を長官から入手しない限り、米国を出国してはならない。 Form 1040-Cを出国時に提出して、適正に申告を行い、未払いの税金がないので出国していいですよと言う証明をもらう。それからアメリカを出国するという建前だ。但し、除外される人が規定されているので、もともと全員が対象ではない。 実は、この規定は100年以上前の1021年の税法で出現している。100年前と言えば第1次世界大戦が終わって間もない時期で、戦争中に蓄積された多額の債務を返済する必要があった。そうした時期にアメリカの居住外国人が、税金を払わずに出国してしまうのを見過ごすわけにはいかなかったのだろう。 100年前から税法に顔を見せているのだが、日常的にはほとんどお目にかかることがない。アメリカから出国をするタイミングで税金を精算する。あくまで出国のタイミングなので、その年の全期間が確定しているとは言えない。仮締めだから、その後、税金が発生することもあるし、過払いがあれば還付金をもらう。アメリカ出国時に仮精算をしなくとも、通常の確定申告で申告を行えば1回で済んでしまう。 確かに保守的に考えるとこうした出国時の申告フォームの存在の意味はあるだろう。ほとんど行われていないとすれば廃止しても?と思えなくもない。しかしアメリカ市民やグリーンカード所有者が税務上の出国を行う場合は、Form 8854の提出が求められる。外国人にはこうした精算がないのはバランスが悪いというなら、なくするわけにはいかないのかも知れない。
企業が社員の奨学金を代理返還する動きが日本では広がっているという。従来は、会社が社員の返済負担を肩代わりするには、会社が直接送金することはできず、返済分を給与に上乗せしていた。支援を受けた人は所得が増えたとみなされ、所得税や社会保険料の負担増となってしまう。 会社が直接送金できるようになったことで、給与の上乗せとはみなされず、税負担は増えずに済むことになる。 さて、アメリカの税務の対象となるアメリカ市民やグリーンカードを持っている人が、日本でこのケースに遭遇したらどうなるのか。 一般論として、アメリカの税務では教育資金のためにお金を借りたり、補助金や奨学金を受けても所得として報告する必要はない。学生ローンは返済する必要があるため課税対象ではない。いつかはお金を返済しなければならない。 しかし、支払わなければならない金額未満で債務が取り消され、免除された場合、取り消された金額は課税対象となり、取り消された分を納税申告書で報告する必要がある。 アメリカの2021年税法では、学生ローン免除規定が決められ、2025 年 12 月 31 日までとなっている。何とか日本の奨学金の代理返還に税金がかからないようにしてくれないかとは思うが微妙だ。 学生ローンの免除に対する法的異議申し立てが米国最高裁判所に持ち込まれ、米国最高裁判所では2023年6月30日、バイデン大統領の学生ローン免除は最終的に無効との判断がなされている。
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