
日米の夫婦で夫がアメリカ市民、妻が日本人とする。そのアメリカ人配偶者が亡くなり、IRA(個人年金)が残されたとする。これはどのように処理されるのだろう。 まず、税務上の問題に入る前に、IRAの受益者指定が極めて重要である。もしも再婚した夫婦だった場合、過去にIRA口座を開設した際に元配偶者が受益者として登録され、その設定が見直されずに現在の配偶者になっていなかった場合、夫の死亡時にそのIRAが元配偶者へ移管され、自分が相続できなくなる可能性がある。このような手違いは後々大きな問題となるため、事前の確認が必須である。 IRAは配偶者が受益人であるならば妻がその個人年金を相続する。しかし、妻はアメリカの税務から見ればアメリカ税務上の非居住者である場合が多い。非居住外国人である妻は、米国税法上、「Inherited IRA(相続IRA)」として口座を開設することになる。相続のIRAとして管理されるため、直接の「Rollover IRA」(自分名義のIRAへのロールオーバー)はできない。 現実的な選択肢としては、①Inherited IRAを管理しながら数年にわたり分割受領する、②口座を一旦閉鎖し相続分を一括で受領する、のいずれかとなる。 非居住外国人の場合、IRAを受領すると通常30%の源泉徴収税が課される可能性がある。しかし、日米租税条約により、相続したIRAは妻が日本に居住していれば日本の確定申告で課税され、アメリカ側での課税は基本的に行われない。 一方、妻がグリーンカード(永住権)を保持している場合、米国税法上は「居住者」と認定される。その結果、相続に関するIRAの取り扱いは非居住外国人の場合とは異なり、配偶者が自分名義のIRAへのロールオーバーを行う選択が可能となる。税務的にはアメリカの課税対象ともなり、日米二カ国の二重課税の処理が発生する。

政府機関閉鎖に備えたIRSの緊急対応計画によると、シャットダウンが2025年10月8日から2026年4月30日まで及ぶ場合、全職員約74,300人のうち約35000人が自宅待機だという。 この期間に申告する必要があるのか。 この状態なので申告書を提出しなくてよいということにはならない。通常通り納税申告を続ける必要があるし、納税するべき税金を払わなくてもよいということにはならない。 電子申告または紙の申告書の提出は引き続き可能だが、紙の申告書の処理は政府の業務が完全に再開されるまで延期されるようだ。IRS は郵便物を受け取り、受け取った税金の支払いを入金することはできても、通常、書面による通信には応答しない。政府閉鎖中に IRS に手紙を郵送しても、その未処理件数が増えるため、政府業務が完全に再開された後の返答にさらに時間がかかることを覚悟しておく必要がある。 この状態でもIRSのコンピュータは機械的に動いている。税額不足の督促状を発行し続ける。しかしながらIRSが税額不足という判断が間違えていることがある。日本から書面でIRSの督促レターに答えても書類を見てもらえない。時間だけが経過し、なぜIRSの手紙に対して無回答なのかとPCが機械的に発行するレターがエスカレートし、銀行預金の差し押さえも辞さないといった手紙が送られてくることもあり得る。 日本からとっくに回答をしているのに、なぜ回答をしてこないというのには閉口してしまう。当方の主張に理があるのにも関わらず、それが否認されてしまっていると考えがちだ。しかし何のことはない、当方から提出した手紙が全く開封されておらず、単に滞っている。ただIRSのPCが督促状を発行し続ける。 この状態はしばらく継続すると覚悟した方がよいだろう。このままだと感謝祭からクリスマスの季節となり、ただでさえお休みモードになりやすい。処理されていない手紙が一斉に処理されるといっても、長期的に休んでいた仕事がいきなり次の日から100%、150%で動きだすとは考えにくい。 参考までに、2018年の政府閉鎖は35日間いた。当時IRS(内国歳入庁)が業務を再開した時、未回答の郵便物が500万通も積み上がり、閉鎖のピーク時には、IRSは1日あたり70万通以上の郵便物を受け取っていたという。一日の郵便物の処理件数が2万件としても250営業日で、丸々1年間を要するという状況だった。 こうした大変な時期にある。物事が順調に動いていない。自らやるべきことは適切に行い、IRSの処理進捗に対しては長期にわたる対応遅延も想定する必要があるだろう。

米国では、主要な居住用不動産の譲渡益に対して、最大25万ドル(夫婦合算申告の場合は最大50万ドル)までのキャピタルゲインが非課税となる。この控除を超過した利益には、連邦のキャピタルゲイン税が課税される。 控除制度の概要(Section 121 Exclusion) 米国の主要な居住用不動産の譲渡益に対する譲渡益控除(Section 121 Exclusion)は、1997年の納税者救済法(Taxpayer Relief Act of 1997)によって導入された。現行制度では、譲渡日以前の過去5年間のうち合計2年以上その不動産を所有し、かつ主要な住居として使用していれば、独身者は最大25万ドル、夫婦合算申告者は最大50万ドルまでの譲渡益を繰り返し非課税にできる。この控除額は2025年現在も変更されていない。 インフレ調整の欠如と課税対象者の増加 この控除限度額はインフレ調整されていない。そのため、時間の経過とともに実質的な税制優遇の価値は低下している。その結果、近年、米国全土での住宅価格の高騰により、控除額を超過する譲渡益が発生し、キャピタルゲイン税の課税対象となる人が増加傾向にある。1997年以降の住宅価格の上昇率に合わせて控除額が調整されていた場合、現在の非課税限度額は独身で約60万ドル、夫婦で約120万ドルに相当するとの推計もある。 政治的な動向:キャピタルゲイン税廃止の議論 この状況に対し、トランプ大統領は、住宅市場の流動性向上策として、主要な居住用不動産のキャピタルゲイン税を完全に廃止する法案の支持を表明し、検討していると報じられている。非課税限度額の撤廃や引き上げは、特に高額物件の売買を活性化させ、市場供給の増加につながることが期待される。 日本の不動産への適用と為替の影響 米国で確定申告を行う納税義務者(米国市民や永住権保持者など)にとって、このキャピタルゲイン控除は、日本にある主要な居住用不動産の譲渡にも適用される。譲渡益は米ドル建てで計算され、為替レートの変動が大きく影響する。例えば、以下のケースでは、円安が米ドル建ての利益を抑え、非課税枠に収まる結果となる。 購入時(2000年): 5,000万円 ÷ 107.8円/ドル 約$46万 売却時(現在): 1億円 ÷ 150円/ドル 約 $67万 譲渡益: $67万 - $46万=約$21万 約$21万の譲渡益は、独身者の控除額でも$25万の範囲内であるため、米国連邦税の課税は発生しない。もしも譲渡益の控除額がインフレ調整されると更に余裕が生ずる。ただし、これは日本の税金は別に考慮する必要がある事は言うを待たない。 (まとめ) 個人所得税の主要な不動産の譲渡益控除額:独身で最大25万ドル 夫婦合算で最大50万ドル

米国市民権や永住権を放棄した人(以下「Expatriate」)は、放棄した年の翌年4月15日までに、通常の所得税申告とともに「Form 8854:Initial and Annual Expatriation Statement」を提出する。納税者が課税年度途中で米国の永住権を放棄して U.S. person でなくなった場合、その課税年度は Dual-Status Yearとなる。この年は、年度内に米国居住者(Resident)としての期間と非居住者(Nonresident)としての期間が混在する。そのため、年度末時点での身分により、申告書の「本体」が異なる。 【Dual-Status Year における申告書の構成】 1.年度末に非居住者である場合 - 本体:Form 1040-NR(Dual-Status Return) - 添付書類:Form 1040(Dual-Status Statement) 2.年度末に居住者である場合 - 本体:Form 1040(Dual-Status Return) - 添付書類:Form 1040-NR(Dual-Status Statement) グリーンカードを返納し、その年度末に非居住者となった場合は、Form 1040-NR が Dual-Status Return となる。 【Form 8854 の提出について】 Form 8854(出国税)は、納税者が米国居住者でなくなったことを IRS に正式に通知するとともに、過去5年間の税務遵守状況を証明するために提出する。このForm 8854 に記載するバランスシート評価の基準日は「Form I-407 提出の前日」とされ、これが米国居住者としての最終日となる。記載内容には、全世界資産の時価評価額、負債状況、ならびに過去5年間の税務コンプライアンスが含まれる。 【紙の申告・電子申告】 Form 8854のバランスシート評価基準日が「居住者終了日(Form I-407提出の前日)」であるため、「Form 1040(dual status statement)への添付」が理論的に自然だと感じられる。 しかしながら説明書を見れば次のように書いてある。 Former U.S. long-term residents are required to file Form 8854, Initial and Annual Expatriation Statement, with their dual-status return for the last year of U.S. residency. Dual status returnに付けなさいとある。Dual status statementに付けるようには書いていない。紙の提出の場合、Form 1040-NR を本体とし、Form 8854 を添付し、さらに Form 1040 を添付書類としてひとまとめにして郵送する。 一方、電子申告(e-file)の場合は、一式の書類パッケージとして IRS に提出されるため、どちらに添付するかを個別に考慮する必要はない。

アメリカの「政府閉鎖(Government Shutdown)」は、議会が10月からの新年度予算を可決しない場合に発生し、連邦政府機関の一部が一時的に業務を停止する状態だ。IRS(内国歳入庁)も例外ではなく、納税や還付、問い合わせ対応など納税者サービスにさまざまな影響が及ぶ。 IRS職員のうち半数強が自宅待機対象となり、人数は最大で約3万人以上に及ぶと言われる。自宅待機は解雇(レイオフ)ではなく一時的な業務停止で無給休業であり、在宅勤務とは異なる。業務指示がなければ、自宅で業務に関わる行為(メールや電話対応、資料作成など)は行えないことになる。 IRSの政府閉鎖時の基本対応 閉鎖の最初の5営業日程度はほぼ全職員が通常業務を継続する。閉鎖が長期化すると、業務は「継続されるもの」と「停止されるもの」に明確に分かれる。 継続される優先業務 電子申告(e-file)の受付・処理 既存の支払いや徴収業務 詐欺防止・犯罪捜査関連業務 システム保守・セキュリティ管理 停止または遅延する業務 紙の申告書の処理 電話・郵便での問い合わせ対応 新たな還付金の発行(特に紙ベース) 対面での納税者支援の業務 閉鎖期間中に申告や支払い期限が到来しても、法定期限の延長は自動的には行われない。納税者は、通常どおり期限内に電子申告や納税を行う必要がある。 日本からの申告はどうなるのか 問い合わせやサポートの遅延・停止 日本等の海外からIRSに連絡しても、コールセンターが人員削減や閉鎖状態となるため、質問や申告トラブルへの対応が大幅に遅れる。 書類提出・審査の遅延 郵送による確定申告書類やITIN(納税者番号)申請の処理が大幅に遅延する。書類審査やエラー対応も通常より長く時間がかかる。 還付(Refund)の遅延 アメリカの還付金を受け取る場合、払い戻しにより時間がかかる。 電子申告(e-file)への影響は限定的(現状) 現在の政府閉鎖初期段階ではe-file(電子申告)は維持されるものの、閉鎖が長期化した場合は停止リスクや確認作業の遅延も想定される。 現状でもIRSの処理がDOGEの人員削減で遅れているのに加え、政府閉鎖が加わった。人は働いていなくともIRSのコンピュータシステムは停止しない。職員が対応できないため、納税者が通知に返信しても処理が進まず、時間経過とともに自動で督促や差押えのレターが発行されるケースも懸念される。納税者は、過剰な反応(差し押さえなど)を防ぐための証拠保全が重要になる。

2025年、米国内国歳入庁(IRS)の税金還付は、人員削減や予算縮小でかなり時間がかかっている。一方で大統領令により、電子化を推進して小切手の郵送を廃止し、還付作業の合理化を推進する。 1. 還付金の処理状況の確認 IRSは還付に関する問い合わせについて、原則として「Where’s My Refund」で確認を案内する。個別ケース調査は原則不可で、特別な優先処理や詳細確認は行われない。 2. 人員削減とサービス低下 IRSは2024年度、約1億1,760万件の還付を実施(申告全体の約65%)している。一方で2025年、IRS職員は25%以上削減(約1万人規模)という推計がある。 これにより以下の影響が出ている。 審査・カスタマーサービス・還付処理部門での遅延 特に紙申告・修正申告・ID確認案件の遅延 問い合わせへの対応遅れ(電話もつながりにくい) 3. 紙の還付小切手が廃止へ 2025年3月、トランプ政権により「紙による還付小切手送付の原則廃止」が決定。9月30日以降は納税者への還付は電子支払い(ダイレクトデポジット・プリペイドカード・デジタルウォレット)に原則的に一本化され、紙の小切手は段階的に廃止されて、限定的な例外(米国銀行口座のない人等)以外使えなくなる。 4. 日本の居住者への影響はどうなるか 2025年9月以降の制度変更は、原則として “新しい還付申告(たとえば 2025年分の税申告=2026年申告)以降” を対象とする可能性が高い。そのため2024年またはそれ以前の過去分の還付は、しばらくは従来通りのやり方が併存するものとみられる。 具体的には今後発表されるIRSのガイダンスを待つことになる。

〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町4-8-403
Phone:03-6231-0301
相続税:資産家のための相続税相談申告センター
日本の税務:星泰光・杉沢史郎税理士事務所
| 水天宮前駅 | ― |
東京メトロ半蔵門線 6番口 4分 |
|---|---|---|
| 茅場町駅 | ― |
東京メトロ 東西線 A4出口 徒歩5分 |
| 人形町駅 | ― |
東京メトロ 日比谷線 / 都営浅草線 A2出口 7分 |