Tsuchida & Associates日米にわたる国際税務

Tsuchida & Associateshaは日米に渡る国際税務に関する問題を解決いたします。

お知らせ

2026.11.01
その他

止まっていた還付が動いた

正しい申告書を出せば、IRSの案内どおりに還付金が戻ってくる。IRSが言う目安は「電子申告の場合は21日以内」だ。ところが、現実はなかなかその通りにはいかない。 21日未満の還付は問題なく処理された大多数の話だ。海外から出す申告や、内容が複雑な申告は、この数字の外側にある。IRSの週次統計(2026年4月24日までの累計)では、受け付けた申告書は1億4,200万件を超え、約9,570万件に還付が出ている。一方、全米納税者擁護官(NTA)の報告によると、2026年のシーズンには1,400万件を超える申告が処理中に止められた。受付総数の約1割にあたる。 その大半は、数週間のうちに処理されているようだ。ただし、通常の処理期間を超えて待たされた人が約110万人おり、その平均は約5.5週間だった。止められた申告には「数週間から数か月」待たされたものもある、と報告書は書いている。さらに修正申告の未処理も約200万件ある(前年は260万件)。 では、数か月ではなく、年単位で待たされる人はどれだけいるのか。それを示す統計は、確認できた範囲では見つからなかった。 そんな中で、今週、長く止まっていた還付が、立て続けに動いた。今週届いた報告には、2020年分や2022年分の還付もあった。これは例外的に時間がかかった例かもしれない。しかし、1年、2年と年単位で待つ話は結構ある。 驚いたのは、IRSの動きだ。長い間止まっていたものが、堰を切ったように動いたように見える。なぜ動いたのか理由は不明だが、IRSの内部で何かがあったのではないか、と想像するだけだ。手が付けられていなかった申告書に、やっと順番が回ってきたのかもしれない。 還付金額が大きい申告や、海外からの複雑な申告は、機械的な処理ではなく人の目で確認される傾向がある。内容が不明だったり、情報が足りないと判断されると、IRSからレターが届く。このレターのやり取りにも時間がかかり、すぐには進まない。 背景には、人手の問題もありそうだ。IRSの職員は、2025年に入ってから約25%減ったと報じられている(2025年7月のTIGTAの報告に基づく報道)。NTAの報告では、手作業で処理しなければならない在庫は、2026年のシーズン末で1,050万件に達した。国際案件を見る担当者は、単純な申告を見る人と違って、経験が必要だ。そうした人手が足りなければ、処理が遅れるのも無理はない。 還付の遅れは、必ずしも誤りから来るものではない。申告書が正しくても、書類の突合や審査、人手の不足といった、こちらからは見えない事情で止まる。待つ側にできることは限られている。還付が遅れた場合には、原則として、その分に利息が付く。遅れは、お金の上では埋め合わせがされる。もちろん、待つ人の不安や、日々の暮らしの負担は、それとは別の話だ。 できることを尽くしても、行政の側が動かない時間は存在する。今回、一気に動いたのは、あまりに処理が遅れたため、IRSが何とかしようと動いた結果かもしれない。ただ、これも想像にすぎない。 それにしても、IRSは巨大な船のようだ。舵を切っても、進路が変わるまでには長い距離を進まなければならない。人員を減らしすぎたあとで、海外案件や複雑な申告書を処理できる人を、今日の明日で確保できるわけではないだろう。やっと、前触れもなくIRSは動いてくれた。

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2026.10.25
その他

グリーンカードの手じまい

良く言われる。「グリーンカードはもう十年近く前に切れているので、とっくに関係ないと思っていました」。永住者としての税務上のポジションは、本人が放棄の手続きをするまで、原則として続く。日本に帰国して何年も経っていても、米国の税法の上では、まだ永住者のままということがある。 手続きの日が、区切りの日になる 放棄の手続きはForm I-407で行う。日本からでも手続きできる。この手続きには、提出期限がない。遅れてもペナルティはなく、出した日が、永住者でなくなる日になる。ただし、日付をさかのぼって出すことはできない。つまり、提出期限がないのでペナルティを心配することはない。ただし、先送りするほど、アメリカの申告をしなければならない年は増えていく。永住者のままの間は、毎年の申告とFBARの義務が続くからだ。期限がないことは、安心の理由にはならない。 本当の関門は、手続きの前にある 長年、米国に住んでいた人が永住権を手放すときは、「出国税」の対象になるかどうかを判定される。この判定では、過去5年間、米国の税金の義務をきちんと果たしてきたことを、本人が証明することになっている。ここで、申告が止まっている年があると、問題になる。証明ができないと、資産や納税額の大小に関係なく、対象者として扱われてしまう仕組みだ。つまり、永住権を手放すという一つの行為の前に、過去の申告を整えるという作業が先にある。 順番を間違えないこと 私は、次の順番を考えている。まず、過去の申告を整える。未提出の年があっても、故意ではなかった場合には、海外在住の人向けの救済手続きがある。それで足りない古い年は、通常の遅延申告で補う。次に、I-407を出す。そして最後に、その年の申告と、出国税の判定書類を、期限までに出す。 最後の書類が遅れた場合は、ペナルティの対象になり得る。ただし、合理的な理由があれば、免除される余地もある。しかし、「知らなかった」と言うだけでは通らない。いつ気づき、何を確認したのか。そして気づいてから、どれだけ早く動いたのか。そうした事実の積み重ねが問われる。 グリーンカードの手じまいを先送りにしている人の多くは、迷った末に出していないのではなく、日々の生活に紛れて、時間が経過しているだけなのだと思う。けれど、放棄は、将来に対する明快な選択だ。日本での暮らしが確立するほど、年齢を重ねてからアメリカでもう一度暮らし直すことは、簡単ではなくなる。一方で、子や孫がアメリカに住んでいるなら、その近くで暮らしたいと思う日が来るかもしれない。放棄すれば、戻るには、あらためて在留の手続きが必要になる。 どちらの道を選ぶにしても、年齢が高くなるほど、自分の中で明快に答えを出しておくのがよいだろう。放棄するのか、維持して毎年きちんと申告するのか。何もしないまま、毎年の義務と、整えるべき年だけが積み上がっていく状態がいちばん重い。税務申告の負担は続いていくものの、日本に住んでいる限りその恩恵があるのかどうかは疑問だ。 財布の奥の期限切れのカードを、捨てるのは簡単だ。けれど、グリーンカードは、捨てても終わらない。

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2026.10.18
その他

アメリカの税金をカードで払う

アメリカに銀行口座がない場合、納税の手段は意外と限られる。ドル建ての小切手を郵送する方法もあるが、小切手の用意や郵送の手間、届くまでの不安を考えると、なかなか気軽にはできない。結局、多くの人が選ぶのはクレジットカードだ。自宅のパソコンやスマホから、オンラインショッピングのような感覚で納税できてしまう。便利な時代になった。 実は「IRSに直接払っていた」わけではない ただ、ここに少し意外な事実がある。カードで納税しても、お金はカード会社からIRSに直接渡るわけではない。間に「IRS指定の第三者決済事業者」が入り、その事業者がカード決済を処理していた。納税者の目から見ればカードで納税しているだけだが、仕組みの上では民間事業者が決済を代行している形だ。 そして、この代行事業者には手数料を払う必要があった。現在の案内では、クレジットカードで1.75〜1.85%程度(最低2.50ドル)である。たとえば1万ドル納めれば、手数料は175ドル前後になる。 なぜこんな回りくどい形だったのかというと、1990年代からの法律で「IRSは、カード決済の手数料を自分で払ってはいけないし、納税者から取ってもいけない」とされていたからだ。IRS自身が決済の手数料を扱えない以上、間に民間事業者を挟むしかなかった。1999年にカード納付が始まって以来、約四半世紀この形が続いてきた。 今回の変更:IRSが直接受け付けられる 転機は2019年の法改正(Taxpayer First Act)だった。「納税者から全額回収できるなら、IRSが手数料を負担してよい」という例外ができたのである。これを実際の規則として完成させたのが、2026年10月16日に公表された最終規則だ。 要点は次の3つである。 *IRSが直接カード納付を受け付けられるようになる。 *手数料はゼロにはならない。 IRSが決済コストを負担した場合、その分は「手数料」として納税者から回収される。「無料になる」ではなく、「手数料の払い先と仕組みが変わる」と考えるのが正確だ。 *従来の方式もなくならない。 Pay1040やACI Paymentsなどを通じた今までのカード納付は、引き続き選べる。 正直なところ、手数料が今より安くなるかどうかは、まだ分からない。実際の契約内容が決まらないと見えてこないからだ。 気をつけたいこと ① 「規則の発効」と「サービス開始」は別物である。 規則は10月19日付で発効する予定だが、直接カード納付そのものがいつ始まるかは、この規則では決まっていない。今はまだ、今までどおりPay1040かACI経由で払うことになる。開始時期は、IRSの公式案内が出るのを待つ。 ② 手数料は還付の対象にならない。 手数料は税金そのものではないため、万が一多めに納付しても、手数料の分は還付の対象外である。金額を確認してから払うのが基本だ。 ③ カードの利用限度額に注意したい。 ここは日本に住む人が一番つまずきやすい点だと思う。納税額は、普段の買い物とは桁が違うことが多い。 カードの限度額が、納税額に手数料を足した金額に足りるか、事前に確認しておく。 足りない場合は、カード会社に連絡して一時的な増枠(利用限度額の引き上げ)を依頼する。ネットで手続きできるカードも多い。 高額な海外決済は、不正利用の疑いで一時的に止められることがある。事前に連絡しておくと安心だ。 本人認証(3Dセキュアなど)の設定も、あらかじめ確認しておく。 直前になって決済が通らないと焦る。締切の数日前までに余裕をもって済ませるのがお勧めだ。 ④ 銀行口座による納付もある。 米国の銀行口座があれば、米国銀行から口座振替で納税ができる。しかし、日本に住んでいてアメリカの銀行口座を持っている人は、限られたケースだろう。口座がない人が、手数料と引き換えに手軽さを選ぶのがカード納付という位置づけである。 「手数料が消える」ほど単純な話ではないが、25年続いた仕組みが変わることは大きな一歩だ。日本から納税する人にとって、選択肢が増えるのは素直に歓迎したい。

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2026.10.11
所得税

10月15日

10月15日は、米国の個人所得税申告書を延長している人にとっての提出期限である。この時期になると、毎年同じ質問が届く。 「15日までに払わなければならないのか」 「どうやって払えばいいのか」 「間に合わなかったらどうなるのか」 まず知っておいてほしいのは、延長で延びたのは「申告書の提出期限」であって、「納税期限」ではないということである。申告書に記載される納税額は、本来の期限である4月15日時点で納めるべき税額である。延長をしても、その納税期限自体は延びていない。そのため、4月15日から実際に支払う日までに発生する利息は、通常、申告書の税額には含まれない。10月に支払うのはあくまで税額の元本であり、利息や延滞関連の請求は後日、IRSや州税当局から別途通知されることが多い。 10月15日を過ぎると何が起きるのか 申告書の提出期限を過ぎると、納税額が残っている場合には、Failure to File Penalty(申告遅延加算税)が課される。一般的には未納税額に対して月5%で、上限は25%である。一方、納税そのものが遅れている場合のFailure to Pay Penalty(納付遅延加算税)は通常月0.5%である。つまり、提出の遅れは納税の遅れよりもはるかに重い。 どうしても間に合わない場合でも、何も提出しないよりは、可能な限り完成度の高い申告書を提出するほうが有利なケースが多い。 間に合わないなら、見積りで提出するという選択肢もある 必要な資料がまだ届かない。どうしても数字が確定しない。そのような場合には、その時点で入手できている情報を基に、合理的な見積りで申告書を作成して提出する方法がある。納税額が見込まれる場合は、その見積額も併せて支払っておく。その後、追加資料が届いて数字が確定したら、修正申告(Amended Return)で訂正する。ただし、数字がほとんど記載されていない申告書や、実質的に白紙に近い申告書は、有効な申告として扱われない可能性がある。あくまで、その時点での最善の情報に基づいて誠実に作成することが前提である。 反対に、税額がゼロまたは還付見込みで、情報申告の罰則リスクもない場合には、無理に急いで誤った申告をするより、必要資料を待って正確に申告するほうが合理的なこともある。 日本に住んでいる場合 海外に住む米国納税者は、申告期限が自動的に6月15日まで延長される。しかし、10月15日までさらに延長するためには、通常はForm 4868による延長申請が必要である。そのため、延長申請を行っていない場合には、6月15日の時点ですでに期限後申告の状態になっている。このような場合は、「10月15日に間に合わせること」よりも、「できるだけ早く提出すること」のほうが重要である。 納税額が残っている場合には、時間の経過とともに加算税や利息が増えていくため、早く提出し、早く支払うほど負担は小さくなる。 FBARだけは別 海外口座報告であるFBAR(FinCEN Form 114)は扱いが異なる。FBARは延長申請を提出していなくても、自動的に10月15日まで期限が延長される。したがって、FBARについては10月15日が実質的な最終期限である。 間に合わなかったからといって、そのまま放置するのが最もよくない。申告書は後から修正できる。しかし、提出しないまま時間だけが過ぎると、加算税も利息も積み上がっていく。10月15日を迎える今、「完璧に出す」ことよりも、「適切に出す」ことも考えたい。

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2026.10.04
情報申告

FATCAは、なぜこんなにわかりにくいのか

銀行や証券会社で口座を開くとき、「米国との関係はありますか」と尋ねられた経験がある人は少なくないだろう。そのとき初めてFATCA(Form 8938)という言葉を知った人もいるはずである。ところが、少し調べてみると、すぐに壁にぶつかる。 海外に住んでいるなら大丈夫なのかと思えば、そうとも限らない。提出が必要になる金額を調べると、5万ドルという説明もあれば20万ドルという説明もある。さらに、夫婦の場合は扱いが違うという話まで出てくる。結局、自分は何をしなければならないのか。Form 8938には、迷いやすい要素がいくつも重なっている。 まず戸惑うのは、提出基準である。 税務の世界では、「年収がいくら以上なら申告が必要」のように、一つの数字が示されることが多い。しかしForm 8938はそうではない。米国に住んでいる人と海外に住んでいる人では基準が異なり、さらに夫婦で申告するかどうかでも変わる。そのため、「いくら以上なら提出が必要なのか」という単純な質問であっても、人によって答えが違う。しかも、日本に住んでいるからといって、自動的に海外居住者の基準が使えるわけではない。 ここで二つ目の迷いが生まれる。それは日付である。税法は一年単位で動いている。しかし人の生活はそうではない。赴任も帰国も、グリーンカードの取得も放棄も、多くは年の途中で起こる。 日本から米国へ移った年。米国から日本へ戻った年。こうした年には、「いつから」「いつまで」が重要になる。いつから米国の税法上の居住者だったのか。いつまで居住者だったのか。 一見すると単純な話のようだが、実際にはそこが最も分かりにくい。特に家族が絡むと話はさらに複雑になる。本人は帰国したが、子どもの学校の都合で家族は米国に残る。あるいはその逆もある。現実の生活ではよくあることだが、税務の世界ではその一つ一つが判断材料になる。 そして最後に、多くの人を悩ませるのが夫婦の扱いである。 夫婦合算申告をする場合には、夫婦全体で判定する。一方、別々に申告する場合には、それぞれが個別に判定する。 さらにFBARの報告制度になると、またルールが違う。同じ海外資産についての話なのに、制度によって数え方や考え方が変わる。混乱するのも当然だろう。 では、どう考えればよいのか。 まず、自分はその年に米国の税務申告をするのか。しなければForm 8938が基準額に達していても提出することはない。 次に、その年のうち、いつからいつまで米国の税法上の居住者だったのか。 最後に、夫婦で合算申告をするのか、別々に申告するのか。 この三つを整理すると、多くの場合、自分にどの基準が適用されるのかが見えてきやすい。 FATCAがわかりにくいのは、基準額、居住者判定、引越しの年、夫婦の扱い。いくつもの分岐点が同時に存在するからである。

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2026.09.27
その他

知らなかったではダメなのか

日本で生まれ育ち、日本の学校を卒業し、日本の会社で働いている。そんな人が、ある日突然、「あなたはアメリカへの税務申告をしていませんでした」と言われたら、どう思うだろうか。しかし、これは決して珍しい話ではない。親のどちらかがアメリカ国籍だった。あるいは、親の駐在中にアメリカで生まれた。ただそれだけの理由で、一度もアメリカで働いたことがなくても、アメリカの税務申告義務を負うことがある。 赤信号を渡ってはいけないというルールなら誰でも知っている。教科書で習わなくても分かる。信号が赤に変わり、車が止まり、周囲の人が足を止める。その光景を何度も目にするうちに、そこにルールがあることを自然に理解する。しかし、アメリカへの申告義務には、そうした「見える信号」がない。赤くもならないし、誰も立ち止まらない。日本で普通に生活している限り、その義務は何十年経っても一度も姿を現さないことがある。 ところがある日、銀行での手続きやニュース記事、あるいは知人との会話をきっかけに、初めて「そんな決まりがあったのか」と知る。そして多くの場合、それは義務が発生してからかなり時間が経った後だ。こうした場面で必ず出てくるのが、reasonable cause(正当な理由)という言葉である。 「知らなかったのだから仕方ない」と言いたくなるが、税務の世界では単に法律を知らなかったというだけでは、原則として reasonable cause にはならない。もっとも、実際の判断はそれほど単純ではない。どのような環境で暮らしていたのか、義務を知る機会があったのか、知った後にどう対応したのか。そうした事情も含めて総合的に評価される。 なぜ今、この言葉が重みを増しているのか 近年、日本の金融機関が収集した口座情報は、FATCAの枠組みの下で日米当局間に共有される仕組みとして定着し、その情報の照合も以前より自動化が進んでいる。情報は以前より自動的に伝わるようになり、判定は機械的になりつつある。一方で、救済の基準はむしろ見えにくくなっている。その結果として、reasonable cause という言葉の重要性は以前にも増して高まっているように見える。 それでも、「知らなかった」としか言えない 普通の人にとって、それ以外に何があるのだろう。現実には、「ただ知らなかった」以外に説明のしようがない人も少なくないだろう。日本で生まれ育ち、日本の社会の中で暮らしてきた。アメリカで働いたこともなければ、税務当局から案内を受けたこともない。そのような人にとって、申告しなかった理由を正直に説明すれば、結局は「知らなかった」に行き着く。 「知らなかった」を選べる場所もある FBAR(海外金融口座報告)の遅延提出では、この問題をより身近な形で見ることができる。提出理由を説明する欄があり、そこでは実際に「知らなかった」という趣旨の理由を選択することもできる。もちろん、それを選んだからといって自動的に救済が認められるかどうかはわからない。しかし少なくとも制度を運用する側も、「義務を知らなかった」という状況が現実に起こり得ること自体は前提としている。 考えてみれば、不思議な話でもある。 義務を課している側は、その義務の存在を積極的に知らせているわけではない。出生証明書を発行する病院も、パスポート取得時も、日本で暮らしている限り、この義務を教えてくれる案内に接する機会もほとんどない。それでも、原則として知らなかったことの責任は本人が負うことになる。それはまるで、信号機も標識もない交差点を歩いていた人に対して、後になって「そこには守るべき規則があった」と告げるようなものに見える。 reasonable cause が本来向き合うべきもの reasonable cause という制度は、本来、そのような事情を考慮するための制度のはずである。普通に生活していただけの人が、ある日突然、自分はなぜ申告をしてこなかったのかを説明しなければならなくなる。そして、その説明の内容が結果を左右することもある。 「知らなかった」だけでは足りない。しかし、多くの人にとっては、それが最も正直な説明でもある。その現実こそが、reasonable cause をめぐる難しさなのかもしれない。

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