日本に帰国して日本の居住者となっている方が、アメリカの申告書を提出する時に、アメリカの知り合いの住所を使って申告をして良いだろうかと質問さる。アメリカでのことで、なんとなく縁遠いと言うか、判断がつかないのでそう思うのかも知れない。 日本に住んでいるのに、アメリカの住所を使用することは、不具合を引き起こす可能性がある。 困って相談されたケース: ① 州税の申告と支払いを求められた。日本に住んでいる人は、実はその州に足を踏み入れたことがない。その州での所得もない。普通ならば、その州の申告とは無縁だ。しかし、その州の住民として住所を記入しているので、全世界所得を申告しなさいと言われた。 ② Form 2555において、外国(日本)で働いて得た所得は2023年ベースだと12万ドルの控除が取れる。条件としては330日以上、外国に居住していなければならない。実際にこの控除を取ることができるのにも関わらず、外国に居住している人が日本に330日以上居住しているのは説明がつかず、せっかくの控除を使えない。 ③ 申告後、IRSからの還付小切手や書類はアメリカの住所に送られる。税額の追加払いや書類の追加提出を求められることもある。30日以内に回答を求められても、書類が転送されないので本人は全く分からない。自分の手元に書類が届いた時には回答期限が過ぎてしまっている。書類をタイムリーに確実に受け取れるかどうか何とも言えない。結果的にペナルティが雪だるまということもあり得る。 実際に居住していない州で申告することは、税務上の虚偽申告と見なされる可能性があり、将来的な税務調査のリスクがある。 このケースを立ち位置を変えて考えてみたらどうだろう。仮に日本に住んで日本の確定申告書を提出する人がロサンゼルスやニューヨークの住所で日本の税務署に申告すると置き換えてみる。そもそも不自然で不可能と思うだろう。少なくとも頭の中では注意信号が灯り、赤信号がともってもおかしくはない。 アメリカの州の住所を使って申告をする場合、それなりの理由があってのことかも知れないが、慎重な判断が必要だ。
亡くなってしまったらすべてそれでお終い。何もしたくてもすることができない。行為能力がないのだから、はいさようならとなるのだろうか。そんなことはなく遺産管理人や相続人が、亡くなった人の代わりに申告義務を果たすので、そうはいかないだろうと考えるだろう。 Form 8854(出国税)は、米国市民や米国長期居住者が市民権や永住権を放棄した場合に、資産や税の情報をIRSに報告するためのフォームだ。このフォームは通常、自発的な市民権放棄を原因として提出される。 アメリカ市民が死亡した場合、死亡はアメリカ市民権の喪失の事由となる。市民権を喪失したのだから亡くなった方は、出国税の対象と言えるのだろうか。 死亡: 自然に市民権を失う。これは出国とは異なり、故人が意図的に行うものではない。市民権放棄: 本人が生前に意図的に市民権を放棄する。 死亡による市民権喪失は自然なプロセスだ。しかし市民権放棄は本人が生前に意図的に行うものであり、出国税の手続きが必要だ。 結果的に市民権の喪失は同じでも、生前に自発的な意図のもとに放棄を行う場合と、死後では話が違うということにならざるを得ない。 すると亡くなった場合はほとんどの場合、出国税の提出を要さないだろう。 しかし死亡の場合でも、死亡前に市民権放棄の手続きを完了して、死亡によって出国税が未完となった場合だ。IRSはForm I-407が提出され、その後の手続きがないために税務上の処理としてForm 8854の提出を求めて来るかもしれない。状況によっては遺言執行者がForm 8854を提出する義務が発生することもあり得ると言う事だろう。 出国税に関しては、亡くなってしまったら、珍しくはいさようならかも知れない。しかし、基本中の基本のForm 1040は亡くなったから、決して何もしなくても良いということにはならない。遺産管理人や相続人が、亡くなった人の代わりに申告義務を果たすことが鉄則だ。
米国で生まれた場合、自動的に米国市民となる。米国社会の一員として果たさなければならない義務が発生する。米国の憲法や法律を守るのは当然として、税金の申告納税を行わなければならない。 しかし、幼児期に日本に帰国し、それ以降米国に足を踏み入れたことがない人もいるだろう。米国への申告義務が全く頭になく知りませんでしたということもあり得る。 交通ルールで考えると、私たちは赤信号では交差点を渡ってはいけないとみんな知っている。どうして知っているのだろうか。 教育: 親から「赤信号では渡ってはいけない」と言われるし、幼稚園、小学校でも教わる。社会体験: 信号無視をして事故を起こしたり、警察官に注意されたりすることで、そのルールを守る重要性を身をもって体験する。法制度:自動車の免許を取れば、 道路交通法で、赤信号で進行が禁止されていることが常識的にわかる。 社会生活の中の様々な場面を通じて、交通信号のルールを学び、それを守る行動をとる。 米国に住んでいれば、同じように税金が認識される。 教育:税金は、民主主義社会を支える重要な要素の一つで、税金は、社会を支える基礎となる。社会科の授業で税金がどのように集められ、どのように使われているかについて学ぶ。社会体験:買い物をすれば売上税がかかる。アルバイトをすれば、給与から税金が差し引かれることを実感し、税金について否応なく理解を深める。 学校教育、社会体験等を通して多角的に認識する。 さて、米国では市民権をベースに申告納税制度ができている。たまたま米国で生まれただけの人でも、全く同じく普通の米国な市民だ。ただ、日本に住んでいて米国に足を踏み入れたことがほとんどなければ、米国の社会体験もなく、米国の納税義務は縁遠いだろう。 しかし、米国から見れば、米国の申告義務を知らなかったことを免罪符に、申告から除外することはできない。一般の米国市民が納税義務を知らないから、税務申告をしないと言うことに歯止めをかけられなくなる。これは足元から社会の基盤を崩壊させかねない。 いろいろ気の毒な事情があっても、米国市民であるならば、最後はきちんと米国の申告の義務を果たしてくださいとしか言いようがない。日本に住んでいる場合は、米国の申告を行ってもほとんど税金が発生しないことが多い。あまりその点は心配せずに、きちんと申告義務を果たしてくださいと申し上げたい。
アメリカでは財産をあげる人が課税される。日本は財産をもらう人が課税される。贈与(または相続/遺贈)を受ける多くの人が、アメリカも日本と同じで財産をもらった人が課税されると考えてしまう。これは正しくはないのだが、アメリカの税務であっても、日本の頭でいる方が安全な場合がある。 一つは財産から生ずる収入だ。 仮に叔母が家を贈与してくれたとする。一般的なルールでは、家そのものの価値は総所得に含まれない。つまり、家を贈与された時にその価値に対して税金を払う必要はない。 ところが、その家を賃貸して賃貸収入を得た場合、その賃貸収入は総所得に含まれ、賃貸収入に対して税金を払う事になる。 もし叔母が家そのものではなく、家からの賃貸収入を贈与してくれた場合、その賃貸収入は総所得に含まれる。賃貸収入に対して税金を払う必要がある。 さて、この叔母が元々アメリカ市民またはグリーンカードを持っていた場合だ。現在は市民権やグリーンカードを放棄してしまっている。この場合の贈与や遺贈には特別な税金が適用される場合がある。 特別譲渡税(Section 2801 Tax)があり、元アメリカ市民であった叔母から受け取った贈与や遺贈が、特別譲渡税の対象となることがある。この税金は、贈与や遺贈の価値の40%に相当する税金が課される。 贈与の価値が1,000,000ドルだと、贈与された財産の価値に対してざっと400,000ドルの特別譲渡税を支払う事になる。しかも税金を払う人は贈与を受けた人だ。 叔母が30年前、50年前にアメリカ市民権を放棄していたとしても、この規定の対象になるのだろうか。特別譲渡税の適用には時間的な制限がある。特別譲渡税は2008年6月17日以降にアメリカ市民権を放棄した人に適用される。したがって、30年前、50年前に市民権を放棄した人からの贈与や遺贈は、この特別譲渡税の対象にはらない。 こうした財産から生ずる所得や贈与そのものに対する課税は、アメリカ市民やグリーンカードを持っている人だけに発生するものではない。 全くアメリカに足を踏み入れたこともない、日本で暮らしている普通の日本人にもアメリカの税金が発生する。知らなかったので何もしていませんでしたではすまない。
Form 1040のバリエーションにForm 1040-SRがある。このForm 1040-SR は、米国の申告を行う65歳以上の納税者が利用できる所得税申告書だ。始まってもう5年は経過している。 年齢を重ねるにつれて視力が低下することが多く、小さな文字を読むのが難しくなる。この申告書のフォントは大きく、ゆったり書いてあるので高齢者には間違いなく見やすい。 しかしながら、見た目と言っても、片手に電卓を持って紙の申告書を作成する人は、現在どれくらいいるのだろうか。多くの人はPC の画面でフォームを見る。フォントの大きさを任意に変えられる。画面で見ている人にはあまり関係ないだろう。 見た目以外に税務上、Form 1040-SRのメリットはあるのだろうか。 65歳以上になれば標準控除の金額が増額される。2023年の実績では次のとおりだ。65才以上の増額:独身 $13,850+増額$1,850結婚して夫婦別々 $13,850+増額$1,850所帯主 $20,800+増額 $1,850夫婦合算 $27,700+増額 $3,000 この増額は機械的に適用される。Form 1040-SRだからこの金額で、Form 1040なのでこの金額を使えないというものではない。 さらに65才以上の高齢者であれば、老齢のクレジットを取れる可能性はある。老齢のクレジットを使うために必ずしもForm 1040-SRを使わなければならないということはない。Form 1040を使うことに制限はない。 申告書のフォームをForm 1040からForm 1040-SRにかえたので税金が小さくなったということはない。課税年度の最終日の時点で65歳以上であれば、Form 1040でもForm 1040-SRでも、どちらのフォームも使用できる。 Form 1040SRはすべての状況に対応できず、複雑な申告の場合、Form 1040を使用する場合がある。何とか高齢者の申告を簡潔にして、分かりやすくするという狙いはわかるのだが、見た目以外にこのフォームのメリットを感ずることがない。何かもったいない気がする。
米国の税務上の居住者となるかどうかは、米国の税金の処理で大きな分かれ目となる。市民権やグリーンカードを持っていれば、米国の税務上の居住者だ。これ以外のケースだと、183日ルール(実質滞在テスト)に基づいて、納税者が米国の居住者とみなされるかどうかを判断する。このルールでは、過去3年間で183日以上米国に滞在している場合、米国の居住者とみなされる。 しかし、機械的にこの計算で線引きをしてしまうのが合理的でない場合もあり得る。病気や入院などの理由で米国外に出られなかった場合、その日数をカウントから除外できる場合がある。同じく、自然災害やその他の不可抗力による理由で米国外に出られなかった場合も同様だ。 機械的なテストだけでアメリカの居住者となれば、税金の処理上、実態に合わないことも出てくる。そこを補完するために、実質的滞在テストを満たした場合でも、米国の税務上、米国の非居住者として扱われる道が残されている。次のようなケースだ。 年間を通じて米国に滞在した日数が183日未満であった米国よりも外国と密接な関係を持っていた年間を通じて外国にタックスホームを持っていた永住権(グリーンカード)申請がなされていなかった 実態を見て米国居住者とするべきか、米国非居住者とするのが目的に合っているのか、個別に判断される余地がある。 183日を超えて米国非居住者となっても、全く米国の税金の外に出るというわけではない。課税される所得の範囲が異なる。米国を源泉とする所得があれば、どの道、米国非居住者として米国に申告をすることになる。 実際は米国居住者として税額を計算する方が、標準控除を取ることができたりするので、税額が少なくなることもある。米国居住者となるのが必ずしも税務上不利となるわけではない。個別のケースごとに考えないといけない。 せっかく夏休みを家族と米国旅行を楽しんでいてるなら、あまり、税金とか考える事なく大事な時間を過ごしてもらうのも一案だ。
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