
日本で暮らす米国市民や米国居住者の家庭において、子供名義の金融口座はしばしば見落とされる領域である。特に「子供には社会保障番号(SSN)や納税者番号(ITIN)がないから、何もできない」と考えてしまうと、必要な手続きが遅れ、結果として税務上のリスクを抱えることになる。子供であっても、米国税務の制度が適用されるため、その仕組みを理解しておく必要がある。 1. 子供は「米国人」かという最初の分岐 税務上の義務は、子供自身が米国人かどうかで決まる。米国生まれで米国籍を持つ子供、あるいはグリーンカードを保有する子供には、年齢に関係なく米国税務の報告義務が生じる。一方、日本生まれで米国籍もグリーンカードも持たない子供には、米国税務の義務は発生しない。 2. FBAR:所得も年齢も関係なく義務が生じる FBAR(FinCEN Form 114)は、所得の有無や年齢に関係なく、子供名義の外国口座の残高が年間で一度でも10,000ドルを超えれば提出義務が発生する。幼い子供であっても例外ではない。子供が自ら手続きを行えない場合、親が “Parent/Guardian filing for child” として代行提出することが認められている。また、SSNやITINがない場合でも、パスポート番号と発行国を記載することで提出ができる。 3. FATCA(Form 8938):FBARとは異なる制度 FBARと混同されがちな制度がFATCA(Form 8938)だ。こちらは提出義務の判定は、資産額と所得税申告義務の有無の二つで決まる。 海外居住者の場合、子供名義の金融資産が年末で20万ドル以上、または年間最大残高で30万ドル以上であれば報告対象となる。しかし、ここで重要なのは、Form 1040の提出義務がない人は、資産額に関わらずFATCAの提出義務が免除されるという点だ。つまり、資産が基準を超えていても、1040を提出しない限りFATCAは発生しない。 4. 扶養家族の標準控除という落とし穴 2025年度の標準控除は、自立した納税者であれば16,500ドルだが、扶養に入っている子供の場合、利子や配当などの不労所得に対する標準控除は1,350ドルに制限される。したがって、子供名義の口座で年間1,350ドルを超える利子や配当が発生している場合、子供であってもForm 1040の提出義務が生じる。そして、1040の提出義務が生じたら、FATCA(Form 8938)の判定も必要となる。扶養であるがゆえに申告義務が発生するという逆転現象が起こり得る。 5. SSN/ITINは本当に必要なのか SSNやITINの取得は「1040の提出義務があるかどうか」で判断することになる。 利子や配当が1,350ドル以下で1040が不要であれば、FATCAも不要であり、SSN/ITINを急いで取得する必要はない。 一方、1,350ドルを超えて1040が必要となる場合、FATCAの可能性が生じ、SSN/ITINの取得が不可欠となる。 ただし、FBARだけは所得に関係なく提出が必要であり、ここに制度上の「ねじれ」が存在する。 6. 三つの制度を一つの視点で捉える 子供名義の口座に関する米国税務は、FBAR・FATCA・扶養控除という三つの制度が複雑に絡み合う。 FBARは所得も年齢も関係なく義務が生じる FATCAは1040の提出義務があるかどうかで決まる 扶養家族の標準控除は1,350ドルと低い この三点を押さえて必要な手続きを進めることになる。

米国で申告を行う際、納税者が直面する驚きがある。それは、「4月15日の期限までに税金を100%支払ったのに、なぜペナルティを請求されのか」という事だ。一見理不尽に思えるこの仕組みの背後には、米国の「申告納税制度」の根幹をなす考え方がある。 1.所得発生時に納税する原則 米国の税制は、所得を得たその時に支払うという原則に基づいている。これは、1年分の税金を翌年の4月にまとめて払えばよいということではなく、所得が発生したら、その分に見合う税金を国に納める義務があるという考え方だ。 • 会社員の場合: 毎月の給与からの源泉徴収で、この義務を自動的に果たしている。 • 自営業者・投資家の場合: 源泉徴収がないため、自ら計算して年に4回予定納税を行う。 2. なぜ「全額納付」でもペナルティになるのか 問題は、納税の「タイミング」だ。例えば、年間の最終的な税額が $2,000 だとする。これを4月15日に一括で支払った場合、IRSの視点では本来、4月・6月・9月・翌年1月に分割して受け取るべきだった資金を、最長で1年間貸し付けていたとみなす。この「支払いの遅れ」に対して利息が課される。 3. ペナルティを回避する安全策 IRSは、予測困難な所得変動に配慮し、以下のいずれかを満たせばペナルティを免除する仕組みを設けている。 1. 当年度の税額の90%以上を期中に納付していること。 2. 前年度の税額の100%(調整後総所得が15万ドルを超える高所得者は110%)を期中に納付していること。 4. 実務的な対策 ペナルティを回避するためには、以下のやり方が有効だ。 • 給与の源泉徴収額の調整 会社員は、勤務先に提出するW-4で、給与からの源泉徴収額を多めに設定することで、予定納税の手間を省く。源泉徴収は「年間を通じて均等に支払われた」とみなされる。 • 予定納税 自営業者の場合、4月・6月・9月・翌年1月の各期限に、自ら予定納税として納付する。 4月15日に税金をまとめて払えばいいと考えると、米国ではペナルティを伴うことがある。所得が発生したら、その時点で払わなければならないという意識を持つことが大切だ。

交通事故で身体的な傷害や休業、精神的苦痛、懲罰的損害を含む 10 万ドルの和解金を受け取ったとする。一見すると「事故の補償」としてまとめて受け取るだけのように思えるが、アメリカ税務ではどの部分が非課税で、どの部分が課税かを明確に区分する必要がある。 アメリカ税務の基準となるのは IRC §104(a)(2) で、ここでは「身体的傷害または身体的病気に起因する損害賠償金は所得から除外される」と定められている。つまり、治療費や休業補償など、身体的損失を回復するための金銭は「原状回復」とみなされ、非課税となる。 ただし、すべてが非課税になるわけではない。身体的傷害を伴わない精神的苦痛の補償や、加害者への制裁として支払われる懲罰的損害賠償は課税対象となる。 10 万ドルの和解金が次のようになっていたとする。 身体的傷害・医療費:3 万ドル 休業・給与損失:2 万ドル 精神的苦痛:3 万ドル 懲罰的損害賠償:2 万ドル このうち、医療費、休業補償、身体的傷害由来の精神的苦痛は 非課税となる。事故による身体的損傷とその結果生じた損失は、すべて「身体的傷害の延長」と考えられる。しかし和解金であっても、それが「身体的傷害・病気」を補償する部分に当たらない限り、和解金は課税所得として扱われると考えられる。この区別がわかりにくいことがある。また、懲罰的損害賠償の 2 万ドルは課税される。これは被害者の補償ではなく、加害者への制裁としての性質を持つため、税務上は「所得」と扱われる。 交通事故の和解金は、単なる「補償金」ではなく、税務上は複数の性質を持つ金銭の集合体だ。和解金の課税・非課税を明確にするためには、和解契約書や控訴状などで、「身体的傷害」「精神的苦痛」「給与の未払い」などどう割り振られるかを明記しておくことが重要とされる。

自宅を売却した場合、所有条件・居住条件を満たせば、独身では25万ドル、夫婦であれば50万ドルまでの譲渡益が非課税となる。これは Internal Revenue Code Section 121 に定められた、極めて強力な税制優遇である。 では、夫が死亡した場合、この50万ドル控除はどうなるのかという疑問が生じる。生存配偶者は Married Filing Jointly の資格を失うため、通常の独身者と同じ25万ドルしか使えなくなるのではないかという懸念がある。 しかし、税法はこの点について特別な救済措置を設け、死亡後2年間は50万ドル控除が維持される。 厳格な三条件 死亡後特例を利用するためには、次の三条件をすべて満たす必要がある。 配偶者の死亡から2年以内(730日以内)に売却すること 所有要件・居住要件を満たすこと 再婚していないこと この三つ目の条件が極めて重要である。再婚した瞬間に「surviving spouse」としての地位が失われ、死亡した配偶者との仮想的な夫婦関係が法的に終了したとみなされる。その結果、たとえ所有・居住要件を完全に満たしていても、50万ドル控除の資格は即時に消滅し、25万ドルの Single 枠に強制的に戻される。 再婚のタイミングによる具体例 2023年3月15日:夫死亡(所有・居住要件は満たしている) 2025年3月14日:売却(再婚前) → 50万ドル控除が適用 2025年3月13日:再婚 → 同日に売却 → 25万ドル控除しか使えない この死亡後特例は、未亡人・寡夫の生活を保護するための制度であり、「surviving spouse」という地位が本質だ。再婚は新しい家族単位の形成とみなされ、亡配偶者との法的関係が終了したと判断されるため、特例の根拠が消滅してしまう。 売却のタイミング、再婚の有無、所有・居住要件の充足状況は、譲渡益の非課税枠に大きな影響を与えるため、これらを正確に把握しておくことが重要である。

Form 1040 のprimary taxpayer とspouseはどんな意味があるのかと思うことがあるかも知れない。米国では、「家族は一つの経済単位である」という考え方が強い。世帯単位での課税・管理が行われ、その中心としてprimary taxpayerが設定される。 一方、日本では「所得は個人に帰属する」という思想が強く、そもそも“代表者”を置く必要がない。この違いが、primary taxpayerという概念の有無を分ける。 Primary taxpayerとspouse primary taxpayerとは、夫婦合算申告における「主たる申告者」を意味する。申告書には必ず次の二者が並ぶ構造となる。 • Primary taxpayer(主たる申告者) • Spouse(配偶者) ここで重要なのは、「どちらがprimaryになるか」に明確な法的基準は存在しない点だ。実務上は過去の申告でprimaryだった者 、主軸として登録されている者 がIRSのデータ管理上の起点になる。つまりこれは、「家計の中心」や「収入の多い方」を意味するものではない。 責任の重さは異なるのか 結論から言えば、責任の重さは全く同じである。米国の合算申告には連帯責任の原則が適用される。これは、申告内容の誤りや追加税額について、夫婦のどちらに対しても全額請求できるという意味だ。したがって、primaryだから責任が重い 、spouseだから責任が軽い という関係は存在しない。 日本在住者にとっての実務的な意味 日本に住んでいると、米国税務ではIRSからの郵便物の受領 、過去申告との整合性 、離婚・別居などによるステータス変更 などで影響が出ることがある。 特に海外在住者の場合、IRSからの郵送物の管理や本人確認が難しくなるため、「誰をprimaryにするか」は単なる形式ではなく、実務の安定性に直結する。 日本在住者はどう決めるべきか 日本在住者にとって実務上の優先順位は次のとおりだ。 1. 過去の申告でprimaryだった者を継続する 2. IRSからの郵便物を確実に管理できる人 3. 本人確認をスムーズに行える人 4. 将来も米国税務の中心となる人 特に重要なのは「一貫性」である。primary taxpayerを変更すると、IRS側で混乱が生じ、実務上のトラブルにつながる可能性は十分にある。IRSは“primary taxpayerを中心とした申告”として履歴管理をしている。Primaryの変更でIRSの記録との不整合が生じ、思わぬ手続きトラブルの原因となることがある。

日本ではポイント還元が生活の一部になっている。クレジットカードのキャッシュバックだけでなく、楽天ポイントやPayPayポイント、航空マイルなど、さまざまな形で消費者への還元が行われている。では、こうしたポイントは米国税務上どのように扱われるのだろうか。 結論から言えば、日常のカード利用や買い物によって得られるポイントの大半は、米国税務上課税所得にはならない。 米国国税庁(IRS)は、クレジットカードの報酬を「支出に基づく還元(rebate)」と「支出を伴わないボーナス(income)」に分けて考えている。カード利用によるキャッシュバックやポイントは、通常は購入代金の値引きとして扱われる。例えば1,000ドルの買い物をして20ドルのキャッシュバックを受けた場合でも、税務上は20ドルの所得があったとは考えない。あくまで980ドルで商品を購入したのと同じという扱いである。 この考え方は日本のポイント制度にもほぼ当てはまる。楽天市場のポイントやQR決済の還元など、購入金額に応じて付与されるポイントは、米国税務の観点でもリベートと考えられるため、通常はForm 1040に申告する必要はない。 ただし例外もある。銀行口座の開設ボーナスやクレジットカードの紹介報酬のように、支出を伴わずに受け取る報酬は所得として扱われる可能性がある。米国ではこうした支払いに対してForm 1099-MISCや1099-INTが発行されることもある。日本の金融機関は通常これらを発行しないが、1099が届かなくても所得は申告義務がある点には注意が必要である。 ポイントの税務判断は実はそれほど複雑ではない。確認すべき点は一つである。そのポイントが支出によって得られたものかどうかである。買い物の結果として付与されたポイントであれば通常は非課税であり、支出を伴わないボーナスであれば課税の可能性がある。 キャッシュレス社会が進むなか、ポイント還元はますます身近な存在になっている。その多くは税務上問題にならないが、報酬の性質を理解しておくことは、日本に住む米国市民やグリーンカードホルダーにとって大切なポイントと言えるだろう。

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