銀行や証券会社で口座を開くとき、「米国との関係はありますか」と尋ねられた経験がある人は少なくないだろう。そのとき初めてFATCA(Form 8938)という言葉を知った人もいるはずである。ところが、少し調べてみると、すぐに壁にぶつかる。
海外に住んでいるなら大丈夫なのかと思えば、そうとも限らない。提出が必要になる金額を調べると、5万ドルという説明もあれば20万ドルという説明もある。さらに、夫婦の場合は扱いが違うという話まで出てくる。結局、自分は何をしなければならないのか。Form 8938には、迷いやすい要素がいくつも重なっている。
まず戸惑うのは、提出基準である。
税務の世界では、「年収がいくら以上なら申告が必要」のように、一つの数字が示されることが多い。しかしForm 8938はそうではない。米国に住んでいる人と海外に住んでいる人では基準が異なり、さらに夫婦で申告するかどうかでも変わる。そのため、「いくら以上なら提出が必要なのか」という単純な質問であっても、人によって答えが違う。しかも、日本に住んでいるからといって、自動的に海外居住者の基準が使えるわけではない。
ここで二つ目の迷いが生まれる。それは日付である。税法は一年単位で動いている。しかし人の生活はそうではない。赴任も帰国も、グリーンカードの取得も放棄も、多くは年の途中で起こる。
日本から米国へ移った年。米国から日本へ戻った年。こうした年には、「いつから」「いつまで」が重要になる。いつから米国の税法上の居住者だったのか。いつまで居住者だったのか。
一見すると単純な話のようだが、実際にはそこが最も分かりにくい。特に家族が絡むと話はさらに複雑になる。本人は帰国したが、子どもの学校の都合で家族は米国に残る。あるいはその逆もある。現実の生活ではよくあることだが、税務の世界ではその一つ一つが判断材料になる。
そして最後に、多くの人を悩ませるのが夫婦の扱いである。
夫婦合算申告をする場合には、夫婦全体で判定する。一方、別々に申告する場合には、それぞれが個別に判定する。
さらにFBARの報告制度になると、またルールが違う。同じ海外資産についての話なのに、制度によって数え方や考え方が変わる。混乱するのも当然だろう。
では、どう考えればよいのか。
まず、自分はその年に米国の税務申告をするのか。しなければForm 8938が基準額に達していても提出することはない。
次に、その年のうち、いつからいつまで米国の税法上の居住者だったのか。
最後に、夫婦で合算申告をするのか、別々に申告するのか。
この三つを整理すると、多くの場合、自分にどの基準が適用されるのかが見えてきやすい。
FATCAがわかりにくいのは、基準額、居住者判定、引越しの年、夫婦の扱い。いくつもの分岐点が同時に存在するからである。
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