米国税務に関わる人が戸惑う制度の一つが、FBARとFATCA(Form 8938)である。どちらも海外の銀行口座や金融資産を報告する制度であり、日本在住の米国市民やグリーンカードホルダーにとっては身近な届出である。しかし、実際に計算方法を見ていくと、「なぜそうなるのか」と首をかしげたくなる場面が少なくない。
典型例が「最高残高」と「為替レート」の扱いである。
多くの人は、口座の最高残高をドル換算するのであれば、「最高残高が発生した日の為替レート」を使うのが自然だと考える。例えば、年内のある日に普通預金残高が3,000万円となり、それが年間最高だったとする。その日のドル円レートが1ドル150円であれば20万ドル、100円であれば30万ドルになる。経済的な実態を考えれば、このような計算をするだろう。
ところがFBARはそうした考え方を採らない。
FBARでは、まず年間の最高残高を現地通貨で求め、その金額を年末時点の指定レートでドル換算する。つまり、最高残高が1月に発生していても、9月に発生していても、ドル換算には12月31日のレートを使用する。
最高残高の日と最も円高の日を組み合わせればもっと大きなドル金額になるかもしれないし、その逆もあり得る。しかしFBARはそうした現実の市場価値を追求しない。違和感があるが、「正確な時価評価」よりも「統一された事務処理」を重視した制度と理解した方がわかりやすい。
この違和感は、グリーンカード放棄の年になるとさらに強くなる。
例えば3月31日にグリーンカードを放棄した場合、多くの人は「1月1日から3月31日までの最高残高を計算し、その時点のレートで換算するのだろう」と考える。しかしFBARはそのような発想で設計された制度ではない。報告対象となる口座や残高は米国人であった期間を基準に考える一方、ドル換算では年末レートが用いられる。そのため、3月31日にグリーンカードを放棄した人であっても、計算上は12月31日の為替レートが登場することになり、違和感を覚えるかもしれない。
ところが、同じ海外口座報告であるForm 8938になると話が変わる。
Form 8938は所得税申告書の一部であり、FBARとは制度目的が異なる。そのため、「その人がいつSpecified Individualだったか」という税務上の地位が重要になる。グリーンカード保有者であった期間、米国税務上の居住者であった期間という考え方が前面に出てくる。
資産評価についても、FBARのように全員が同じ年末レートで機械的に換算する制度ではない。Form 8938は税務申告の一部として資産情報を把握する仕組みであり、FBARとはそもそもの発想が異なる。
結局のところ、この差は制度目的の違いから生じている。
FBARは金融犯罪対策や情報収集を目的とした報告制度であり、「全員同じやり方で報告させること」が重視される。一方でForm 8938にはFBARのような統一的な換算ルールは設けられておらず、資産価額を税務上報告するという発想が重視されている。このため、両者の金額が一致しないことは珍しくない。
「どちらも海外口座報告なのだから同じ数字になるはずだ」と考えてしまいがちだ。しかし、FBARで計算した金額をそのままForm 8938へ持っていけるとは限らない。もっとも、納税者から見ればほぼ同じような情報を二度報告することになる。制度目的が異なるとはいえ、その手間や負担に疑問を感じる人も多いだろう。FBARとForm 8938を一本化すべきだという議論は以前から存在するが、現在に至るまで両制度は並行して存続している。
〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町4-8-403
Phone:03-6231-0301
相続税:資産家のための相続税相談申告センター
日本の税務:星泰光・杉沢史郎税理士事務所
| 水天宮前駅 | ― |
東京メトロ半蔵門線 6番口 4分 |
|---|---|---|
| 茅場町駅 | ― |
東京メトロ 東西線 A4出口 徒歩5分 |
| 人形町駅 | ― |
東京メトロ 日比谷線 / 都営浅草線 A2出口 7分 |