納税者は正確な税額だけ税金を払う権利があると、納税者の権利に記載されている。 Taxpayers have the right to pay only the amount of tax legally due, including interest and penalties, and to have the IRS apply all tax payments properly. と言う事は、払わなければいけない税額以上を納付することはない。仮に納付するべき税金の100%ではなく、90%しか納付しなければ、未払いの部分の10%に延滞金利などが上乗せで追加の納付を求められる。 では、税額以上に納税したらどうなるか。例えば、納付期日に間に合わず延滞金が出る。IRSから延滞金の請求が来るのが必至だ。払うのはいいにしても、また日本からその精算分を支払う手続きが大変だ。金額的にはわずかな金額でしかない。多少多く支払っても1回で済んだ方がありがたい。こうして納付する税額以上の税金を払う。 IRSのコンピュータでは税額が$XXXから$YYYとは記録されていない。そのものずばりの金額だ。そうなると、送金したお金と税額が不一致だから受領出来ないとなることもあり得る。するとこの郵便事情が良くない時に、何カ月もかかってリカバリーをしていくことになり、その間の延滞金がさらに変動する。こうなるとせっかくの考えが墓穴を掘ることになりかねない。 正確な税額を納付する。そしてIRSがさらに延滞金を求めてきたらその正確な金額を納付する。納税者は正確な税額以上に税金を払わない権利があると言うわけだから、申告書の納税額以上に多少大目に支払うことはない。 余談ながら、いかに正確な税額を支払ってもIRSは受け取りを拒否することがある。本当かと思うかも知れないが100万ドル(約1.3億円)を超える小切手は受領してもらえない。この場合は、小切手を分割して1枚の額面を100万ドル以下にしなくてはならない。
アメリカの個人所得税の最も重要な一丁目一番地が市民権課税だ。この市民権課税は世界広しといえども、ほぼアメリカだけの仕組みだ。世界中の諸国が居住地課税なのに、アメリカのスタンダードだけが異なっている。 居住地課税だと国を越えて引越すと、住んでいる国に軸足を置いて申告を考えればよい。一方、市民権課税だと、アメリカ市民である限り世界中のどこに行ってもアメリカの税務が追いかけて来る。 どうしてこんなになったかと言えば、アメリカの独立戦争と関係していたらしい。アメリカは18世紀に独立をかけてイギリスと戦争をしていた。この時に、お金を持っている人たちは、自分の子供が血を流さないために、アメリカの外に逃がしたらしい。お金を出させることで人々を囲い込み、外にいる人でさえアメリカの人ならば、みな犠牲を払って独立に貢献しようとなったと言いう。もしも本当ならば、国ができる時からアメリカのDNAの中に市民権課税が組み込まれているようだ。 日本に住んでいると言うことで我々は日本の税金の中で生きている。一方、アメリカの市民権やグリーンカードを持ちながら日本に住んでいれば、アメリカの税金の対象でもある。二カ国の税金を払うのは大変なことだ。だから国同士が話し合って二重課税を回避しようとする。 アメリカが一方的に日本に譲歩すれば、市民権を基礎として課税をしているアメリカの根本に風穴があく。即ち、外国に出ることによってアメリカの税金の外に出られるとなる。独立戦争当時に当てはめると、アメリカの外に出れば血も流さず税金も払わずいられる。これを良しとするならば、国の根幹が揺らぐ。そうしてできた国の市民権課税を容易に取り下げられまい。世界中に例のない孤高の市民権課税だ。
年の途中でアメリカに入国したり出国したりする。非居住外国人だった人が居住外国人になったり、その逆に市民権やグリーンカードを放棄して非居住外国人になる。2021年コロナウイルスの3回目の給付では、このDUAL STATUS をどう判断するべきか。 この給付金をもらえる人の条件はざっと次のようになる。 アメリカ市民又はアメリカ居住者の外国人である。 他の納税者の扶養家族になっていない。 調整後の総所得(AGI)は、夫婦合算申告で150,000ドル、世帯主は112,500ドル、独身は75,000ドル以下なら満額もらえる。 支払いを受け取るには社会保障番号(SSN)が必要である。 この条件を裏返した時に、非居住外国人はダメで、申告書を提出するに有効なSSNを持っていない人もダメと読める。 しかしながら、どこの時点を基準にしてアメリカ市民又はアメリカ居住者と判断するのだろうか。年の途中で非居住外国人だった人が居住外国人になったり、その逆に市民権やグリーンカードを放棄して非居住外国人になるDUAL STATUSの場合だ。2021年CARES法は、居住者を判断する基準時点を提供していない。 コップに水が2分の1入っている。これは水が2分の1あるのか、2分の1ないのかどっちだろう。ある方に光を当てれば居住者で、無い方に光を当てれば非居住者か迷う。 亡くなった人では、2020年中に亡くなった場合は2021年のコロナ給付金の対象にはならない。でも2021年に入って亡くなった人は時期を問わず対象となっている。それから類推すれば、2021年にどこかの時点で居住者だったらOKと言う事か。SSNという要件も、家族の中にSSNを持っている人がいれば対象になるので、ITINではダメという事にはならない。各論ではいろいろありえる。
2022年2月11日の朝日新聞に記事が掲載されていたので、目にされた方も多いかと思う。IRSはオンラインで税務手続きを行う時に、身元確認技術を提供するID.meに登録するように呼び掛けていた。 これはなんとかやらなければいけないと思い、アカウントを作って登録をしていた。但し、認証の段階でビデオの自分の顔を登録しなければならない。自分のビデオ映像?と心理的な抵抗感があったのと、自分の顔のビデオをどうやって登録するのかわからず、忙しさに紛れてそのままになっていた。 これはプライバシーで多くの人には抵抗があるだろうと思っていた。さらに特定の民間会社が起用されることには違和感がある。この個人データを民間会社がどう使うのかも不透明だ。 案の定、民主党と共和党の議員団が異議を唱え、市民団体の批判が強くなり、IRSはID.meの顔認識技術の導入を断念すると月曜日に発表した。既に登録してしまった人はどうなるんだろう。 IRSが何でも自前で準備するのは、予算、技術、マンパワー等から見て合理的ではない。民間のいいものはどんどん取り込んでいこうと言う前向きさの表れかも知れない。しかしこうした抵抗でうまく行かないこともあろう。未納の税金を取り立てる業務を民間会社に委託した時も一度はとん挫している。しかし、問題があれば修正すればいいではないかというチャレンジ精神はすごい。 翻って日本はどうかと言えば、安全に安全にと石橋をたたいて渡らない。仕組みを走らせる前にどれだけ内部検討しているかわからない。日本ではこうしたことは起きないはずだ。結果的に日本では革新するパワーがそがれ安全運転優先だ。 さてどっちがいいのだろう。
出国税(Form 8854)でアメリカ市民には救済措置があり、グリーンカードホルダーには救済措置がない。なぜなのかと考える。 全ての話はアメリカの市民権課税という世界に類のない課税の仕方から発生する。生まれながらにしてアメリカ市民は、市民を根拠として税務申告の義務を負う。アメリカ市民であれば、アメリカだけでなく日本だろうが世界中の所得が課税対象となる。 誰がアメリカ市民たるか。アメリカで生を受けた人、アメリカ市民から生まれた人はアメリカ市民となり得る。アメリカで生まれた人が親の帰国に伴い赤ちゃんや幼児の時に帰国している。それ以来、アメリカには行ったこともない。親がアメリカ市民だけど自分は日本の外に行ったこともない。というような、事故でアメリカ市民となっている人がいる。 事故でアメリカ市民になった人にも、アメリカは納税の義務を課し、日本の所得(全世界の所得)をアメリカに申告するよう求める。でも事故でアメリカ市民になった人は、アメリカに申告したこともない。 アメリカの課税制度の1丁目1番地たるアメリカの市民権課税を破る事は、アメリカの税金の根幹にかかわる。アメリカから見れば、アメリカ市民が申告納税義務を果たしていない。情報申告も行っていない。これは法に背くことゆえに、申告納税義務を求め、無申告のペナルティを課すことになる。 日本人だと思って日本に暮らしている人が、ある日突然、アメリカから100万円単位の税金の支払いを求められたらどうだろう。これは気の毒だと言う事をアメリカも理解する。そういう人は、すみやかにアメリカの市民権を放棄してくださいとなる。そしてその場合は、過去にアメリカの申告もせず納税をしていなくても救済する措置がある。 日本の国籍を放棄して、進んでアメリカに帰化した人は、事故でアメリカ市民になったとは言えない。 グリーンカードホルダーは、気がついたら自分がグリーンカードを持っていたとはならない。自ら進んで能動的にグリーンカードを取得している。アメリカに住もうとしているわけだから、当然のこととしてアメリカ社会の法律、規則、しきたり等を知ってもらわなくては困る。アメリカに住んで働き所得を得ても、全世界所得に対する申告納税の義務を知りませんでしたという事を認めるわけにはいかない。 これが事故でアメリカ市民になった人とは一線を画し、救済措置は使わせないと言う事だろうと考える。
PayPal等の電子決済アプリを使用している場合、今年の1月1日から、電子決済がIRSに対してForm 1099-Kで報告される基準が厳しくなる。その流れで米国の納税者ステータスを確認されている。 PayPal等は、年間で合計600ドル以上の商品またはサービスの支払いをIRSに報告する。この目的は、申告書で報告されていない課税所得を減少させることにある。 従来は、個人アカウントで1年間に200件の取引があり、その合計が20,000ドルの場合にのみ、電子決済アプリ提供者はIRSにフォーム1099-Kを報告していた。 この変更で、突然、課税されていなかったものが課税されると言う事はなく、何も変わらないという方もたくさんいるだろう。 もともと、商品やサービスの対価として受け取る所得は課税対象だ。そうした所得が第三者からIRSに通知されるかどうかに関係なく、申告書で報告する責任は変わらない。 この変更で、IRSは取引が良く見えるようになり、所得の申告漏れを防ぐことができる。即ち、報告された所得が申告書上に記載されているかチェックできるからだ。 但し、こうしたサービスが事業で使われているのか、お年玉を送金したとかビジネスの判断がつかない場合もあるはずだ。何でも事業と報告されるかもしれない。また、同じ内容がForm 1099-NECやForm 1099-Miscと重複してIRSに報告されてしまうかもしれない。 確かにこの変更で、取引の透明度が上がるだろう。一方で、所得の二重計上やビジネスと無関係な支払いまで事業としてForm 1099-Kが発行されてしまうかも知れない。だんだん管理水準が上がるかも知れないが、処理上は手間が増える。
申告書を作成するという本来的な部分の周辺に伏兵がいる。国際的な書類の送付がその一つだ。 コロナウイルスのために郵便局のアメリカ向けEMSは、2020年4月下旬から2021年5月一杯取り扱いが中止されていた。電子申告でほとんど問題がないものの、申告内容により電子申告ができないケースがある。 さて、EMSが再開されてみると、2021年1月1日以降は通関電子データ送信が義務化され、手書きのEMSラベルではなく、ラベルの印刷が必須となっている。 これがなかなかのもので、そもそもPCになじみがなく、スマホもどう使うのだと疑問だらけだと、ラベルをプリントして郵便局に持って行くことが難しい。 あて先は手書きなら何とかなろうと、書留で郵便物を航空便でアメリカに書類を送付したケースがある。何と1か月後アメリカから送り返されてきた。電子データ送信に対応していなかったからだろう。 またアメリカ以外の国へ小包を航空便で10月初旬に発送した。通常なら2週間もあれば配達される。ところが2か月を超えても配達されない。相手先からは荷物がまだ日本にあると言われる。 もちろん、Fedex、DHL、 UPS等を使えば問題ないじゃないかと言われるだろう。こうしたサービスになじんでいないと送り状の作成が一苦労だ。さらに、IRSや州のあて先がP.O. Boxだったり、相手先の電話番号がわからないと受け付けてもらえないことがある。 IRSからの受信でも困る。IRSからの手紙の日付だ。例えば手紙にいつまで納付せよ、追加で書類を送れという納期が30日を指定される。ところが、配達されるタイミングでは、およそ1か月経過し、ひどい時は配達時に既に期限を超過してしまっている。 2021年11月19日の段階で、IRSの未処理の個人申告書は650万件、修正申告は11月27日で260万件、さらにForm 941は12月1日で300万件、同修正版が41万件で合計1,000万件を超える(12月3日IRS発表データ)。 折しもクリスマスシーズンに入り気分はホリディシーズンだ。来月には2021年分の申告が始まろうとしている。
アメリカの市民権やグリーンカードを放棄した場合に、Form 8854(出国税)を提出する。Form 8854の申告期限は、放棄をした年の申告期限と同じで、申告書と一緒に提出する。Form 8854で出国税の対象となる人が定義されている。 対象になる人は、次の3つの基準で判断される。 ①税額基準:放棄より前5年の平均所得税が下記を超えているか。 2018年は165,000ドル 2019年は168,000ドル 2020年には171,000ドル ②純資産基準:純資産が200万ドルを超えているか。 ③適正申告基準:放棄より5年前からすべての連邦税義務を遵守しているか。 ①と②の基準ではNoでも、③の申告基準を満たさないことが散見される。即ち、放棄した年の前5年を適正に申告し、納税している基準を満たしていない。この場合はすみやかに過去に遡り適正に申告をして、税額があれば納付する。 せっかく3つの基準に適合したけれど、Form 8854を提出していない。この場合は、税務上はアメリカ居住者であり続けるのだろうか。以前においてはその扱いであった。しかしながら、現在ではForm 8854を提出していない場合でも、放棄手続きにより税務上はアメリカ非居住者となる。結果的に、アメリカの市民権やグリーンカードを放棄した年以降は全世界所得課税から外れる。 Form 8854を提出していないと、上記の3つの基準をパスしていると宣言しないために、出国税の潜在的な対象となってしまう。しかし遅れてForm 8854を提出しても、3つの基準をパスすれば出国税の対象ではない。 出国税を免れても、Form 8854を提出遅れのペナルティはどうなるか。上記3条件をパスして出国税の対象とならない場合は、ペナルティをほぼ心配しなくても良さそうだ。出国税対象になってしまう人にはペナルティは残る。 IRSがペナルティに動くかどうかは個々の事情も勘案されるし、アメリカ市民については救済もあり手続きも発表されている。流れはForm 8854をきちんと提出するように背中を押していると思える。
アメリカの税務から離脱するためには、アメリカ市民権やグリーンカードを放棄することになる。 離脱をするのであれば、あと2か月以内に行うのが良い。というのは、2021年中に離脱をすれば、2021年の申告が最終申告となる。これが2022年1月とか2月に入ってしまうと、最終申告は2022年分の所得税申告を、2023年に行うことになる。年内に放棄できれば、所得税申告を今年の分でお終いにできる。 では市民権やグリーンカードを放棄することを思いついたらすぐできるのか。市民権については、アメリカ大使館や領事館での面接で意志確認が必要になる。面接スケジュールを取れないと年内は難しい。 ところがグリーンカードの場合はとても簡単だ。Form I-407を記入して、手元にあればグリーンカードと再入国許可証と共に郵送する。今日準備して明日郵送すれば完了という感じなので、年内に十分間に合う。原則的に放棄日は郵送した日で、受領された日ではない。 市民権やグリーンカードを放棄すれば出国税(Form 8854)を提出する事になる。多くの場合、税金が発生することはないと思う。この出国税の対象になるかだが、納税額基準や財産基準で問題がなくても、適正に過去5年間申告を行っていると言う適正申告基準が問題になりやすい。もしも過去5年分の申告をきちんと行っていなければ、今からすみやかに行えば大丈夫だ。 市民権やグリーンカードを放棄する方針が固まっているならば、来年まで引きずらないことが良いだろう。
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