2026.05.17
その他
生まれただけで納税者になる
日本で静かに暮らしてきた人が、ある日突然「あなたは米国納税者である」と告げられることがある。いわゆる意図せず米国籍を持つ人 の問題である。本人に米国とのつながりはほとんどない。米国で生まれただけ、あるいは米国籍の親を持つだけで、米国の税務義務が課される。
この構造は、国際税務の世界でも特異であり、当事者にとっては理不尽だ。 米国は世界でも珍しい 市民権ベース課税を採用している。居住地に関係なく、米国籍を持つ者は米国税法の適用を受ける。日本に住み、日本で働き、日本で税金を納めていても、米国は「あなたは米国市民である以上、米国税務申告を行う義務がある」と主張する。
出生時に米国籍を得た人に対して出生証明書を発行する病院も、パスポートを発行する国務省も、 税務義務についての説明は基本的にはしない。 IRS も税務義務・FBAR・FATCA等の説明を積極的に行っているとは言いがたい。
申告義務を知らずに長年放置していた場合、申告書の提出だけではなくFBAR(外国銀行口座報告) やFATCAの未提出が問題となる。未提出にはペナルティがあり、ここで困ってしまう。 実際には、故意でなければ救済策が存在するが、仕組みがわかりにくい。
こうした状況の中で、米国市民権の放棄を選ぶ人も増えている。今般、 国務省が市民権放棄手数料を 2,350ドルから 450ドルに引き下げたことは、市民権を放棄しようとする人にとってはありがたい話だろう。それでも放棄には Exit Tax(出国税) の問題がつきまとう。資産が一定額を超えると、放棄時点で含み益に課税される。これは「自分の意思で取得したわけでもない国籍を手放すために税金を払う」という、逆説的な構造である。
根本的な問題は市民権ベース課税という制度そのものにある。米国籍を持つというだけで、世界中のどこに住んでいても税務義務が生じる。この制度は、グローバル化した現代社会において、ますます多くの「意図せざる納税者」を生み出している。