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FBARのとまどい

2026年08月30日

米国籍やグリーンカードを保持したまま日本で暮らしていると、米国の税制や報告義務には、わかりにくいものがある。その代表例の一つが、FBAR(海外金融口座報告)における資金移動の扱いだ。単に「報告の数字が増えてどうするのか」という話にとどまらない。「実質的には1万ドルの基準に達していないはずなのに、資金を移動させた結果、FBARの提出義務が発生する」という実務上の問題につながるからだ。

「60万円」が180万円になるFBARの算数

具体例:手元に60万円の現金があり、これを都合により、A銀行からB銀行へ、さらにC銀行へと年内に順次移動させたとする。直感的には、12月31日時点では、

A銀行:0円
B銀行:0円
C銀行:60万円

であり、自分が持っているお金はどこまでいっても60万円である。

1ドル=150円とすれば約4,000ドルである。FBARは、国外金融口座の合計額が年間のいずれかの時点で1万ドルを超えた場合に提出義務が生じるため、「60万円なら1万ドル未満だから、FBARは必要ない」と考えるのは自然だ。

ところが、FBARの計算方法は少し違う。

まず、それぞれの口座について、その年の最高残高を確認する。そして複数の口座がある場合は、それぞれの最高残高を合計して、1万ドルの基準を判定する。

この例では、

A銀行の年間最高残高:60万円
B銀行の年間最高残高:60万円
C銀行の年間最高残高:60万円

となる。

したがって、FBARの提出義務を判定するための合計額は、60万円+60万円+60万円=180万円となる。1ドル=150円なら約12,000ドルであり、1万ドルを超える。

つまり、実際に所有しているお金が180万円になったわけではない。しかし、FBARの提出義務を判定するための計算上の合計額は180万円になる。ここが、素朴な感覚とは異なるところである。

なぜ「同じお金だから60万円」と考えてはいけないのか

FBARでは、まず口座ごとに年間の最高残高を計算し、それを合計する。同じ60万円をA銀行からB銀行へ、さらにC銀行へ移動させたとしても、それぞれの口座で60万円が最高残高になっていれば、判定上は60万円を3口座分合計することになる。これは、「同じお金を3倍持っていた」と当局が認定するという意味ではない。あくまで、FBARの提出義務を判定するために、口座ごとの最高残高を合計するという事である。そのため、「同じお金を移動させただけだから、実質的には60万円しか持っていない」という説明は、資金の実態としては正しくても、FBARの提出義務を判断するうえでは決め手にならない。

では、資金を複数の銀行口座へ移動した結果、1万ドルを超える場合には、どう考えればよいのだろうか。

年末残高だけを見るのではなく、それぞれの口座の年間最高残高を確認して合計する。その合計額が1万ドルを超えるのであれば、FBARの提出義務があるものとして対応するのが安全である。この仕組みは、FBARが資金そのものを追跡しているわけではなく、それぞれの口座について年間の最高残高を計算し、それを合計する制度だ。したがって、資金を銀行間で移動させた場合には、「実際にはいくら持っていたか」だけではなく、「それぞれの口座で年間最高残高がいくらになったか」を見る必要がある。

FBARでは、資金をどこからどこへ移したかではなく、口座ごとの年間最高残高をルールどおり合計するのがシンプルで安全運転だ。


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