アメリカに銀行口座がない場合、納税の手段は意外と限られる。ドル建ての小切手を郵送する方法もあるが、小切手の用意や郵送の手間、届くまでの不安を考えると、なかなか気軽にはできない。結局、多くの人が選ぶのはクレジットカードだ。自宅のパソコンやスマホから、オンラインショッピングのような感覚で納税できてしまう。便利な時代になった。
実は「IRSに直接払っていた」わけではない
ただ、ここに少し意外な事実がある。カードで納税しても、お金はカード会社からIRSに直接渡るわけではない。間に「IRS指定の第三者決済事業者」が入り、その事業者がカード決済を処理していた。納税者の目から見ればカードで納税しているだけだが、仕組みの上では民間事業者が決済を代行している形だ。
そして、この代行事業者には手数料を払う必要があった。現在の案内では、クレジットカードで1.75〜1.85%程度(最低2.50ドル)である。たとえば1万ドル納めれば、手数料は175ドル前後になる。
なぜこんな回りくどい形だったのかというと、1990年代からの法律で「IRSは、カード決済の手数料を自分で払ってはいけないし、納税者から取ってもいけない」とされていたからだ。IRS自身が決済の手数料を扱えない以上、間に民間事業者を挟むしかなかった。1999年にカード納付が始まって以来、約四半世紀この形が続いてきた。
今回の変更:IRSが直接受け付けられる
転機は2019年の法改正(Taxpayer First Act)だった。「納税者から全額回収できるなら、IRSが手数料を負担してよい」という例外ができたのである。これを実際の規則として完成させたのが、2026年10月16日に公表された最終規則だ。
要点は次の3つである。
*IRSが直接カード納付を受け付けられるようになる。
*手数料はゼロにはならない。 IRSが決済コストを負担した場合、その分は「手数料」として納税者から回収される。「無料になる」ではなく、「手数料の払い先と仕組みが変わる」と考えるのが正確だ。
*従来の方式もなくならない。 Pay1040やACI Paymentsなどを通じた今までのカード納付は、引き続き選べる。
正直なところ、手数料が今より安くなるかどうかは、まだ分からない。実際の契約内容が決まらないと見えてこないからだ。
気をつけたいこと
① 「規則の発効」と「サービス開始」は別物である。
規則は10月19日付で発効する予定だが、直接カード納付そのものがいつ始まるかは、この規則では決まっていない。今はまだ、今までどおりPay1040かACI経由で払うことになる。開始時期は、IRSの公式案内が出るのを待つ。
② 手数料は還付の対象にならない。
手数料は税金そのものではないため、万が一多めに納付しても、手数料の分は還付の対象外である。金額を確認してから払うのが基本だ。
③ カードの利用限度額に注意したい。
ここは日本に住む人が一番つまずきやすい点だと思う。納税額は、普段の買い物とは桁が違うことが多い。
カードの限度額が、納税額に手数料を足した金額に足りるか、事前に確認しておく。
足りない場合は、カード会社に連絡して一時的な増枠(利用限度額の引き上げ)を依頼する。ネットで手続きできるカードも多い。
高額な海外決済は、不正利用の疑いで一時的に止められることがある。事前に連絡しておくと安心だ。
本人認証(3Dセキュアなど)の設定も、あらかじめ確認しておく。
直前になって決済が通らないと焦る。締切の数日前までに余裕をもって済ませるのがお勧めだ。
④ 銀行口座による納付もある。
米国の銀行口座があれば、米国銀行から口座振替で納税ができる。しかし、日本に住んでいてアメリカの銀行口座を持っている人は、限られたケースだろう。口座がない人が、手数料と引き換えに手軽さを選ぶのがカード納付という位置づけである。
「手数料が消える」ほど単純な話ではないが、25年続いた仕組みが変わることは大きな一歩だ。日本から納税する人にとって、選択肢が増えるのは素直に歓迎したい。
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