2026年4月

2026.04.26
所得税

シニアボーナスの違和感

アメリカの新しい$6000のシニア優遇税制は、奇妙に思える点がある。 日本在住の非居住者(Form 1040-NR 提出者)は標準控除を使えないのに、条件を満たせばシニアボーナス控除だけは利用できる構造になっているからだ。 1. 非居住者は「標準控除」を使えない 日本在住の多くの日本人は nonresident alien(NRA)であり、Form 1040-NR を使う。 このフォームでは次の制限がある。 • 標準控除は使えない • 65歳以上・盲人の追加標準控除もなし • 夫婦合算申告(MFJ)も不可 つまり、非居住者は標準控除をそもそも使えない。 2. 新制度「シニアボーナス控除」は別枠の追加控除 OBBBA によるシニアボーナス控除)は次のとおりだ。 • 対象:65歳以上 • 金額:1人最大 6,000 ドル(夫婦とも 65歳以上なら 12,000 ドル) • 所得制限:所得に応じて段階的に減額 重要なのは、この控除が 標準控除の延長ではなく、まったく別の「追加控除」 として扱われている点である。 3. Schedule 1-A 追加控除をまとめているのが新フォーム Schedule 1-A(Additional Deductions) である。シニアボーナス控除が含まれる。 Schedule 1-A の上部には次の文言がある。 Attach to Form 1040, 1040-SR, or 1040-NR. さらに最終行には、 Form 1040-NR の line 13c に転記せよ と明記されている。 つまり、Schedule 1-A は 非居住者用の 1040-NR にも添付する前提で設計されている。 4. なぜ「3階だけ」使えるのか • 標準控除(1階)と高齢者追加標準控除(2階)は → 標準控除システムという同じ建物 → 非居住者はこの建物に入れない • シニアボーナス控除(3階)は → 「追加控除」という別棟 → 入口は Schedule 1-A → 1040-NR line 13c つまり、標準控除の建物には入れないが、別棟の「追加控除の建物」には入れる構造になっている。 法律文書では対象を citizen/resident と説明しつつ、フォーム側では 1040-NR にも入口を設けているため、制度としては変則的である。 5. 日本在住の非居住者は実際に使えるのか フォーム構造だけを見ると、次を満たせば 1040-NR でも利用可能となる。 • 65歳以上 • 所得が基準以下 • 法律上の適格な個人に該当 • 社会保障番号を保有 ただし、日本在住の 非居住者は ITIN のみで 社会保障番号がなかったり、要件を満たさないことが多い。 制度上の入口は存在するが、実際に適用できる人はかなり限られる。 外国に住む65歳以上非居住者に対して6,000ドルの控除を与えなければいけない理由はない。そうした人を救うならば1階と2階を使えるようにするべきだ。アメリカに住んでいる税務上の非居住者を救おうとしたのだと思うが、外国に居住する高齢者も結果として救われる。とても違和感があるシニアボーナスだ。

Read More
2026.04.19
情報申告

子供のFBARとFATCA

日本で暮らす米国市民や米国居住者の家庭において、子供名義の金融口座はしばしば見落とされる領域である。特に「子供には社会保障番号(SSN)や納税者番号(ITIN)がないから、何もできない」と考えてしまうと、必要な手続きが遅れ、結果として税務上のリスクを抱えることになる。子供であっても、米国税務の制度が適用されるため、その仕組みを理解しておく必要がある。 1. 子供は「米国人」かという最初の分岐 税務上の義務は、子供自身が米国人かどうかで決まる。米国生まれで米国籍を持つ子供、あるいはグリーンカードを保有する子供には、年齢に関係なく米国税務の報告義務が生じる。一方、日本生まれで米国籍もグリーンカードも持たない子供には、米国税務の義務は発生しない。 2. FBAR:所得も年齢も関係なく義務が生じる FBAR(FinCEN Form 114)は、所得の有無や年齢に関係なく、子供名義の外国口座の残高が年間で一度でも10,000ドルを超えれば提出義務が発生する。幼い子供であっても例外ではない。子供が自ら手続きを行えない場合、親が “Parent/Guardian filing for child” として代行提出することが認められている。また、SSNやITINがない場合でも、パスポート番号と発行国を記載することで提出ができる。 3. FATCA(Form 8938):FBARとは異なる制度 FBARと混同されがちな制度がFATCA(Form 8938)だ。こちらは提出義務の判定は、資産額と所得税申告義務の有無の二つで決まる。 海外居住者の場合、子供名義の金融資産が年末で20万ドル以上、または年間最大残高で30万ドル以上であれば報告対象となる。しかし、ここで重要なのは、Form 1040の提出義務がない人は、資産額に関わらずFATCAの提出義務が免除されるという点だ。つまり、資産が基準を超えていても、1040を提出しない限りFATCAは発生しない。 4. 扶養家族の標準控除という落とし穴 2025年度の標準控除は、自立した納税者であれば16,500ドルだが、扶養に入っている子供の場合、利子や配当などの不労所得に対する標準控除は1,350ドルに制限される。したがって、子供名義の口座で年間1,350ドルを超える利子や配当が発生している場合、子供であってもForm 1040の提出義務が生じる。そして、1040の提出義務が生じたら、FATCA(Form 8938)の判定も必要となる。扶養であるがゆえに申告義務が発生するという逆転現象が起こり得る。 5. SSN/ITINは本当に必要なのか SSNやITINの取得は「1040の提出義務があるかどうか」で判断することになる。 利子や配当が1,350ドル以下で1040が不要であれば、FATCAも不要であり、SSN/ITINを急いで取得する必要はない。 一方、1,350ドルを超えて1040が必要となる場合、FATCAの可能性が生じ、SSN/ITINの取得が不可欠となる。 ただし、FBARだけは所得に関係なく提出が必要であり、ここに制度上の「ねじれ」が存在する。 6. 三つの制度を一つの視点で捉える 子供名義の口座に関する米国税務は、FBAR・FATCA・扶養控除という三つの制度が複雑に絡み合う。 FBARは所得も年齢も関係なく義務が生じる FATCAは1040の提出義務があるかどうかで決まる 扶養家族の標準控除は1,350ドルと低い この三点を押さえて必要な手続きを進めることになる。

Read More
2026.04.12
所得税

全額納付してもペナルティが課される

米国で申告を行う際、納税者が直面する驚きがある。それは、「4月15日の期限までに税金を100%支払ったのに、なぜペナルティを請求されのか」という事だ。一見理不尽に思えるこの仕組みの背後には、米国の「申告納税制度」の根幹をなす考え方がある。 1.所得発生時に納税する原則 米国の税制は、所得を得たその時に支払うという原則に基づいている。これは、1年分の税金を翌年の4月にまとめて払えばよいということではなく、所得が発生したら、その分に見合う税金を国に納める義務があるという考え方だ。 • 会社員の場合: 毎月の給与からの源泉徴収で、この義務を自動的に果たしている。 • 自営業者・投資家の場合: 源泉徴収がないため、自ら計算して年に4回予定納税を行う。 2. なぜ「全額納付」でもペナルティになるのか 問題は、納税の「タイミング」だ。例えば、年間の最終的な税額が $2,000 だとする。これを4月15日に一括で支払った場合、IRSの視点では本来、4月・6月・9月・翌年1月に分割して受け取るべきだった資金を、最長で1年間貸し付けていたとみなす。この「支払いの遅れ」に対して利息が課される。 3. ペナルティを回避する安全策 IRSは、予測困難な所得変動に配慮し、以下のいずれかを満たせばペナルティを免除する仕組みを設けている。 1. 当年度の税額の90%以上を期中に納付していること。 2. 前年度の税額の100%(調整後総所得が15万ドルを超える高所得者は110%)を期中に納付していること。 4. 実務的な対策 ペナルティを回避するためには、以下のやり方が有効だ。 • 給与の源泉徴収額の調整 会社員は、勤務先に提出するW-4で、給与からの源泉徴収額を多めに設定することで、予定納税の手間を省く。源泉徴収は「年間を通じて均等に支払われた」とみなされる。 • 予定納税 自営業者の場合、4月・6月・9月・翌年1月の各期限に、自ら予定納税として納付する。 4月15日に税金をまとめて払えばいいと考えると、米国ではペナルティを伴うことがある。所得が発生したら、その時点で払わなければならないという意識を持つことが大切だ。

Read More
2026.04.05
所得税

交通事故の和解金

交通事故で身体的な傷害や休業、精神的苦痛、懲罰的損害を含む 10 万ドルの和解金を受け取ったとする。一見すると「事故の補償」としてまとめて受け取るだけのように思えるが、アメリカ税務ではどの部分が非課税で、どの部分が課税かを明確に区分する必要がある。 アメリカ税務の基準となるのは IRC §104(a)(2) で、ここでは「身体的傷害または身体的病気に起因する損害賠償金は所得から除外される」と定められている。つまり、治療費や休業補償など、身体的損失を回復するための金銭は「原状回復」とみなされ、非課税となる。 ただし、すべてが非課税になるわけではない。身体的傷害を伴わない精神的苦痛の補償や、加害者への制裁として支払われる懲罰的損害賠償は課税対象となる。 10 万ドルの和解金が次のようになっていたとする。 身体的傷害・医療費:3 万ドル 休業・給与損失:2 万ドル 精神的苦痛:3 万ドル 懲罰的損害賠償:2 万ドル このうち、医療費、休業補償、身体的傷害由来の精神的苦痛は 非課税となる。事故による身体的損傷とその結果生じた損失は、すべて「身体的傷害の延長」と考えられる。しかし和解金であっても、それが「身体的傷害・病気」を補償する部分に当たらない限り、和解金は課税所得として扱われると考えられる。この区別がわかりにくいことがある。また、懲罰的損害賠償の 2 万ドルは課税される。これは被害者の補償ではなく、加害者への制裁としての性質を持つため、税務上は「所得」と扱われる。 交通事故の和解金は、単なる「補償金」ではなく、税務上は複数の性質を持つ金銭の集合体だ。和解金の課税・非課税を明確にするためには、和解契約書や控訴状などで、「身体的傷害」「精神的苦痛」「給与の未払い」などどう割り振られるかを明記しておくことが重要とされる。

Read More

カレンダー

2026年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

Tsuchida & Associates

〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町4-8-403
Phone:03-6231-0301


相続税:資産家のための相続税相談申告センター
日本の税務:星泰光・杉沢史郎税理士事務所

アクセス

水天宮前駅 東京メトロ半蔵門線
6番口 4分
茅場町駅 東京メトロ 東西線
A4出口 徒歩5分
人形町駅 東京メトロ 日比谷線 / 都営浅草線
A2出口 7分
Copyright © Tsuchida & Associates All Rights Reserved.
ページTOP