国境を越える年金は資産か権利か
日本に居住するアメリカ市民とその配偶者にとって、米国のSocial Securityは、老後だけでなく配偶者の死亡時にも生活を支えるセーフティネットとして設計されている。
米国国内法のもとでは、老齢給付から遺族給付への移行も受給者が変わるだけであり、いずれも公的社会保障として一貫して扱われ、連邦遺産税の課税財産にも原則含まれないと整理されている。
しかし、日本の相続税法の世界では別の姿をとる。東京地裁は、米国遺族年金の受給権を相続税法3条1項6号の「契約に基づかない定期金に関する権利」、すなわちみなし相続財産に該当すると判断している。
米国で生活の糧として設計された給付が、日本では評価可能な金融資産として切り出され、国境を越える社会保障の難しさが凝縮されている。
日本の遺族年金との違い
日本の厚生年金や共済組合の遺族年金については、各制度の根拠法において相続税を課さない旨の非課税規定が明示されている。
一方、米国遺族年金には、日本の国内法上そのような特別規定が存在せず、その結果として「日本の遺族年金は非課税、米国の遺族年金は課税」という取扱いの差が生じている。
外国の年金をどこまで自国の遺族年金と同様に保護するかは、日本の立法裁量の範囲内であると裁判所は位置付けており、在日米国人に対して、母国制度による保護は日本国内では自動的には保障されないという現実を突きつけている。
「見えない未来」への一括課税
将来受け取る年金の総額を、相続時点における年金額、統計上の余命、予定利率などを用いて現在価値に引き直し、その金額に対して一括で相続税を課す仕組みとなっている。
しかし、その背後には為替変動や制度改正、期待寿命より早く死亡するリスクなど、多くの不確実性が潜んでいるにもかかわらず、税は「相続時点の理論上の価値」を求める。
遺族は、月々の年金で生活しているにもかかわらず、まだ手にしていない将来の給付に対応する多額の相続税を、現金納付しなければならない可能性がある。
求められる「一貫性」
生前の年金も遺族年金も常に課税する、あるいは社会保障給付は生前・死亡後を問わず原則非課税とする、といった一貫したルールの方が、納税者にとってははるかに理解しやすいだろう。
しかし現実の制度は、税目ごと・国ごとの二重構造になっている。
米国では、Social Securityは所得税については一定条件のもとで課税対象となる一方、estate税の課税財産には原則含めない。
日本では、自国の公的遺族年金は相続税・所得税とも非課税とされる一方、米国遺族年金の受給権は相続税の対象となり得るという構造である。
このずれは、国境を越えて暮らす人々にとって、その継ぎ目をどのように埋めるか大きな課題であるといえる。
東京地裁 令和8年(2026年)2月25日判決
(事件番号:令和6年(行ウ)第465号)
争点: 米国の公的遺族年金を受給する権利が、日本の「相続税」の課税対象になるかどうか。
背景: 日本の法律に基づく遺族年金(厚生年金など)は、個別の法律によって相続税が「非課税」とされている。しかし、米国の遺族年金にはそのような日本の法律上の免除規定がない。
判決の結論: 「相続税の課税対象(みなし相続財産)となる」
東京地裁は、米国の遺族年金受給権を「定期金に関する権利」とみなし、日本の相続税が課されることを適法と判断した。
「日本の遺族年金は非課税なのに、外国の遺族年金に課税するのは平等原則に反する」という原告側の訴えも退けられた。
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