アメリカで「すべての財産を妻に相続させる」と遺言書に記載していても、実務上、必ずしもすべての財産が妻に渡らないことがある。
その代表的な理由の一つが、IRAや生命保険等における受益人指定(beneficiary designation)の扱いである。
1. 受益人指定は遺言より優先される
IRA・401(k)・生命保険・一部の銀行・証券口座などは、契約に基づき、受益人指定によって承継先が決まる「非プロベート資産(non‑probate assets)」と位置付けられる。
これらの資産は、原則として遺言やプロベート(検認裁判)を経由せず、金融機関等が「死亡時に有効な受益人指定フォーム」に従って支払う義務を負う。
そのため、遺言で「IRA を妻に相続させる」と書いていても、IRAの受益人指定が前妻や第三者のままであれば、金融機関は、原則として指定された受益人に支払うことになる。
2. 離婚しても自動的に変わらない場合が多い
離婚しても、IRAや一部の退職年金等の受益人指定が自動的に無効になるとは限らず、州法・連邦法・契約条件によって取り扱いが異なる。
離婚判決や合意書に「受益人を変更する」旨を定めていても、当人が実際に受益人指定フォームを更新しなければ、前配偶者が契約上の有効な受益人として扱われる可能性がある。
3. 死亡後の実務上の取り扱い
被相続人の死亡後に、「遺言には『妻にすべてを渡す』と書いてあるので、前妻に支払うべきではない」と主張しても、多くの場合、金融機関は有効な受益人指定に従って支払う。
遺言とのギャップが生じた場合、その調整は相続人・利害関係人間の問題とされ、裁判所も、詐欺・強要・無効な署名等の特段の事情がない限り、受益人指定による権利を覆すことは容易ではない。
4. 予防的に行うべき見直し
こうした事態を避けるためには、以下のようなライフイベントのたびに、IRA・401(k)・生命保険・年金・投資口座等の受益人指定を定期的に見直すことが重要になる。
結婚・離婚・再婚
子や孫の誕生・養子縁組
受益人として指定していた人の死亡・大きな事情変更
「すべてを現妻に承継させる」という設計にしたいのであれば、各口座の受益人を現妻に変更し、必要に応じて第二順位(contingent)の受益人も整えておく必要がある。
前妻や第三者に IRA・401(k)・生命保険等を残すのが本来の意図であれば、そのように指定を維持しても差し支えないが、遺言書や受益人指定が古いままで現時点の希望と合致していない場合には、速やかな修正が不可欠である。
年末の「大掃除」に合わせて、財産目録や遺言書とともに、各口座の受益人指定を改めて確認することは、将来の紛争を防ぎ、家族の負担を軽減するうえで意味のある作業と言える。
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