2026年7月

2026.07.19
情報申告

Delinquent FBARが消えた日

2026年7月1日、長年海外居住者のよりどころとなってきた Delinquent FBAR Submission Procedures の案内ページがIRSのウェブサイトから削除された。事前の大きな告知もなく、静かに姿を消したのである。 このページは、FBAR(外国銀行口座報告)の提出を忘れてしまった人に対し、一定の条件を満たしていれば罰金を科さないという取扱いを明示していた。 条件は比較的わかりやすかった。海外口座から生じた所得を正しく税務申告していること、納税義務を果たしていること、IRSの調査を受けていないこと、そして未提出についてIRSから連絡を受けていないこと。この条件を満たせば、遅れてFBARを提出しても罰金は課されないと案内されていた。 この明確なガイダンスは、多くの海外居住者にとって大きな安心材料だった。しかし、そのページは削除された。だからといって、FBARの法律そのものが変わったわけではない。 FBARの民事罰を定める米国法典第31編第5321条は現在も改正されておらず、財務長官には罰金を課す権限がある一方で、すべての遅延提出に対して罰金を義務付けているわけではない。個々の事情を考慮する裁量は、これまでどおり残されている。 また、IRS内部マニュアル(IRM)にも、非故意であり、正当な理由があり、遅れて提出したFBARで適切に口座が報告されている場合には、審査官が罰金を科さない判断を行えることが示されている。警告書のみで終了することも認められており、FBAR制度の目的は、すべての遅延提出者に罰金を科すことではなく、自主的なコンプライアンスを促すことにある。 つまり、現時点では法令や内部運用の基本的な枠組みに大きな変更は確認されていない。変わったのは、「この条件を満たせば罰金を科さない」という行政上の明確な案内がなくなったことである。この削除の理由について財務省やIRSから正式な説明は公表されていない。しかし、行政として裁量をより柔軟に維持するため、個別の保証に近いガイダンスを取り下げた可能性は考えられる。 日本在住者への影響 日本に住む米国市民やグリーンカード保持者の中には、FBAR制度そのものを知らず、提出義務に気付かなかったという人も少なくない。そうした事情は、非故意であったことを判断する際の一要素として考慮される可能性があり、実務上は遅延提出だけで罰金が科されないケースが多く見られる。ただし、以前のように「この条件なら罰金はない」と明文化された案内は存在しない。今後は、法律やIRS内部マニュアルに基づき、個々の事情に応じて判断されることになる。 FBARの提出漏れに気付いたとしても、必要以上に慌てる必要はない。まずはBSA電子申告システムから遅れたFBARを提出し、説明欄に提出が遅れた理由を記載することが基本となる。この運用自体は従来と変わっていない。一方で、海外口座から生じた所得まで申告漏れになっている場合は、単なるFBARの遅延提出ではなく、Streamlined Filing Compliance Proceduresなど、より包括的な手続きが適切となる場合がある。 今回削除されたのは、FBAR制度そのものではなく、「一定の条件を満たせば罰金を科さない」という行政上の明文化されたガイダンスである。制度が急に厳しくなったと考える必要はないが、納税者にとっての安心材料が一つ減ったことは事実である。だからこそ、提出漏れに気付いたら放置せず、できるだけ早く適切な対応を取ることが、これまで以上に重要になったと言えるだろう。

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2026.07.12
所得税

アメリカの不動産をいつ売るか

アメリカで長く暮らし、家を買い、そこで生活してきた方が本帰国するとき、意外と大きなテーマになるのが「この家をいつ売るか」だ。不動産の相場だけの問題と思われがちだが、実際には売る時期によって税金の扱いが大きく変わる。 アメリカに住んでいるあいだの譲渡は、アメリカの税金を考えればよい。しかし日本へ帰国したあとに譲渡すると、その利益は日本でも課税対象になる。 同じ家でも、帰国前に譲渡するか、帰国後に譲渡するのか、あるいは賃貸に出してから譲渡するのかで、税務の見え方はかなり違ってくる。10年前に50万ドルで買った不動産が100万ドルで譲渡されたとする。譲渡益が50万ドルというケースで考えてみる。 アメリカ側の特例 アメリカには、主たる居住用財産の譲渡益を一定額まで除外できる制度がある。譲渡前5年のうち2年以上所有し、かつ2年以上居住していれば、夫婦合算申告では最大50万ドル、単身では最大25万ドルまでの利益を除外できる。夫婦合算申告だとアメリカでは税金が発生しない。帰国前に譲渡すれば、アメリカだけの税務で話はシンプルである。 帰国後に譲渡する場合 帰国後に譲渡すると、アメリカと日本の両方で税務が関わる。日本では取得価額と譲渡価額をそれぞれ取引日の為替レートで円換算して譲渡所得を計算するため、円安になると課税所得が大きくなりやすい。例えば、50万ドルで取得した自宅を取得時1ドル=110円、100万ドルで売却した時の為替が1ドル=160円であれば、取得価額は5,500万円、譲渡価額は1億6,000万円となり、譲渡益は1億500万円となる。海外の自宅であっても、日本の居住用財産の要件を満たせば3,000万円特別控除を適用できる可能性があるが、それでも課税譲渡所得は約7,500万円となり、税負担は約1,500万円に達する。日本では円換算により大きな譲渡益が生じる点に注意が必要である。 賃貸に出す場合 譲渡が思うように進まないとき、いったん賃貸に出す判断は珍しくない。ただし、賃貸に出した時点でその家は少しずつ自宅としての性格を失うため、何年後に売るかが重要になる。3年後ならまだ自宅譲渡の特例が残る余地があるが、4年後になると米日ともに自宅譲渡の特例が外れる。不動産は、売れるまで待てば有利とは限らない。長く持ちすぎると税務上の特例を失うことがある。帰国後に譲渡すれば、日本とアメリカの両方で税務が出てくる。為替の動きも、日本側の税額にそのまま影響する。 アメリカの不動産を譲渡するのも簡単ではないかもしれないが、帰国の時期と一緒に考えるべきである。その一点を意識するだけで、余計な税負担や手間をかなり減らせる。

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2026.07.05
その他

様子がいつもと違う

1. 今年は「いつもと違う」 例年、IRSからの還付やレターは“忘れた頃に届く”のが普通だった。 1〜2年前、場合により数年前の申告について突然手紙が届くことも珍しくなく、処理にはとにかく時間がかかるのがIRSの常だった。ところが今年は、申告を終えた直後にIRSから手紙が届くというケースが発生している。 「IRSの処理が改善したのでは?」と期待したくなるスピードだ。しかし、届く手紙のほとんどが Letter 5447C(本人確認レター)だ。 2. Letter 5447C 目的は非常にシンプルで、 「この申告書を提出したのは本当にあなたですか?」 という本人確認だ。近年、他人の個人情報を使って勝手に確定申告を行い、還付金をだまし取る「なりすまし詐欺」が増加している。 そのためIRSは、一定の条件に該当する申告書を自動的にストップし、本人確認を行う仕組みを強化している。 対象になりやすい条件 • 海外住所(日本など)からの申告 → 海外在住者はこれだけで高確率で対象 • 引っ越しをして住所が変わった • 申告ステータス(独身・夫婦合算など)を変更した • ランダム抽出によるチェック 申告内容が間違っているわけではなく、 単に「あなたが本人かどうか」を確認しているだけだ。ただし、本人確認を完了するまで申告処理は完全にストップする。 3. なぜ今年はこの手紙ばかり届くのか 理由は公表されていないが、考えられる背景は次のとおりかもしれない。 可能性①:IRSが慢性的な処理遅延の改善に本気で着手した IRSはここ数年、業務遅延が深刻化していた。 大量の職員退職・解雇も続いており、従来の人力処理では限界が見えていた。 可能性②:AIによる自動判定が導入された 推測ながら、 人手不足を補うためにAIによる自動スクリーニングが強化された可能性がある。 もしアルゴリズムが変更された場合、 「海外住所」「ステータス変更」「住所変更」などの条件に該当する申告が、以前より高頻度で本人確認に回されることは十分あり得る。結果として、 本当に本人が申告しているのに、本人確認レターが大量に届く という現象が起きているのかもしれない。 本人確認レターが届いたら必ず対応しなくてはならない。放置すると処理は動かない。還付金はいつまでたってももらえない。海外在住者にとっては面倒な手続きだが、 IRSの処理が全体として早くなるのであれば、今年の状況は歓迎すべきことかもしれない。しかし、状況が改善しなければさらに重荷を背負うことになる。

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