2025年5月11日

2025.05.11
その他

割り切れない

米国の市民権やグリーンカードを放棄する際、出国税(Form 8854)の対象となる可能性がある。この制度では、出国時に株式等の保有資産の「未実現利益(含み益)」を強制的に実現させ、米国で課税する。通常、課税は資産売却時に発生するが、出国税では未売却の資産も売却済みとみなす独特のルールが適用される。これにより、実際の現金収入がない幽霊利益に対しても課税が行われる。 出国時には資産の「含み益」を強制的に実現させ、アメリカで課税を行う。この含み益が実現するのは、本来は実際に資産を売却した場合だ。売却した場合には、売却代金が手元に入り、そこから税金を支払うことになる。 しかし、出国税では実際の売却は行わない。売却したとみなされ、いわゆる幽霊利益に対して課税が行われる。たとえば、株を50万ドルで購入し、市民権やグリーンカードを放棄する時にその株の価値が100万ドルだとした場合、この含み益50万ドルが実現したものとして課税される。手元に納税資金がなければ、借入をして税金を支払う必要がある。 さて、資産を5年後や10年後に実際に売却したとする。その時、日本に居住して日本の税金の対象となる。この資産の取得原価は100万ドルに引き上げられ、そのときの売却価格が30万ドルだとすると、譲渡損70万ドルが発生する。 ここで問題となるのは、アメリカで出国税が課された未実現利益と、日本で実際に発生した譲渡損失との関係だ。日米の税制を単純に合算すると、実際には70万ドルの損失が出ているにもかかわらず、アメリカでは先行して50万ドルの未実現利益に対して課税が完結しているという状況になる。 アメリカ政府の観点から見ると、市民権またはグリーンカードを放棄した人が未実現利益を抱えたまま出国すると、将来的にその資産を売却した際に得られる譲渡益に対する課税が困難になる。アメリカ非居住者の株式譲渡益は、原則としてアメリカの課税対象とならないためだ。 アメリカの市民権またはグリーンカードを保持している場合、資産の譲渡によって実現する利益には課税され、その税収はアメリカの社会インフラを支える財源となる。しかし、市民権またはグリーンカードを放棄した人は、アメリカの社会インフラを享受して財産を増やしたにもかかわらず、その果実の課税を受けないまま国外に持ち出すことになる。 結局のところ、国としての割り切れなさと個人としての割り切れなさが残る。アメリカが選択した結果は、国としての割り切れなさを優先したものといえるだろう。

Read More

カレンダー

2025年5月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

Tsuchida & Associates

〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町4-8-403
Phone:03-6231-0301


相続税:資産家のための相続税相談申告センター
日本の税務:星泰光・杉沢史郎税理士事務所

アクセス

水天宮前駅 東京メトロ半蔵門線
6番口 4分
茅場町駅 東京メトロ 東西線
A4出口 徒歩5分
人形町駅 東京メトロ 日比谷線 / 都営浅草線
A2出口 7分
Copyright © Tsuchida & Associates All Rights Reserved.
ページTOP